Sweet break Ⅳ
『去年の秋頃の話だ。お前インフルかなんかで、一週間くらい会社を休んだことがあっただろ』

そう言われて思い出した。

去年の10月頃、姉がどこかからもらってきたインフルエンザが、家族全員に蔓延してしまって大変な思いをしたことがあった。

『うん、あの時は職場にも結構迷惑かけちゃったね』
『朱音のいなかったその間に、俺は仕事で単純な計算間違いを、3回指摘されたんだ』
『関君が?』
『ああ。さすがに主任や係長がえらく心配して、3回目ミスった時は、課長までもが俺に少し休んだらどうかと言ってきた』

関君が単純な計算ミスとか…それも短期間で3回もなんて、課長達が心配するのも当然かもしれない。

『確かに、それは心配するよ』
『何、他人事だと思ってるんだ』
『…え』
『お前のせいだぞ』

その時始めて、関君が私の方を見た。

それは、私を責める言葉のはずなのに、まるで愛おしいものを見るような柔らかな眼差しで、思わずドキリとした。

『どうやら俺は、職場にお前がいないと、仕事に集中出来ないらしい』

広い丘の上を、初秋の少し冷たい風が吹き抜ける。

『…それって』
『この前の質問の答えだ』


―――”関君も、私がいるのといないのとじゃ、違う?”


あの時、自販機の前でした質問は、あくまでも社内の業務の上で、いかに自分が必要とされているか否かだったのだけど、その回答は全く想定外のものだった。
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