Sweet break Ⅳ
『言っておくが、他のやつらと同等にするなよ。俺の場合、お前がいるのといないのとじゃ、違うどころの話じゃない。なにせ朱音が会社にいないというだけで、まともに仕事ができなくなるんだからな。ただ、思えば当時は、朱音をそこまで意識していたつもりは…』

そこで少し考えるそぶりをすると、小さな間の後。

『…いや、違う。もうその頃には、自分が朱音に惹かれている自覚はあったんだ…それでも、社内恋愛とか、しかも同じ課の同期ととか面倒そうで、どこかでこれは勘違いだって言い聞かせてた』

関君は、淡々とそう続けると『あの一週間で、否が応でも思い知らされたんだ』と、自嘲する。

『俺はもう、自分で思うよりもずっと、お前を好きになってたんだってことに』

”好き”って聞こえたような気がした。

関君の口から、関君の声音で、自分への想いが発せられたにも関わらず、まるで誰か他の人への告白を聞いたような感覚に陥る。

『関君?…今のって、まるで告白みたいに聞こえちゃうけど…』
『そのつもりなんだが』
『でも今、私しかいないよ?』
『他に誰に言うんだよ』

呆れた口調で、それでいて照れているようにも聞こえる。

不意に薄雲が動き、月が顔を出したおかげで、その表情が見て取れた。

『第一こんなこと、言わなくても分かるだろう思っていたんだが、お前が落合のことを誤解したり、挙句に急にこの交際を考え直したいとか、俺がどんだけ焦ったか…』
『…焦ったの?』
『当たり前だ』

即答され、初めて聞く関君の想いに、胸が熱くなり、どうしようもなく泣きたくなった。

『ずっと…私だけが、好きなのかと思ってた』

堪えるように、着ていたスカートの布をギュッと掴んで、ポツリと零れたのは、自分の本音。

あのバレンタインデーの日から今日まで、絶えず心のどこかで、”関君みたいな人が私を本気で好きになるはずない”って、思っていた。

きっと、この交際は、関君の単なる気まぐれなのだと。
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