Sweet break Ⅳ
『…いたら悪い?ここはみんなの共有スペースのはずですけど?』
『いや、別にそういう意味で言ったんじゃ…』

未来君の戸惑う声にかぶせて、入り口の摺りガラスがコンコンとノックされた。

見れば、関君が給湯室の戸口に背を預け、腕を組んで立っていた。

『落合、話し中悪いが、新しい商品のサンプルが入ったらしい。商品開発部に取りにってくれないか』
『はい、わかりました』

落合さんは直ぐにカウンターにあった自分のパソコンを閉じると、そのまま真っすぐ戸口に向かう。

『おい落合、待てよっ』

未来君の呼びかけにも動じず、彼女は関君の脇を横切って、給湯室から出て行ってしまった。

『朱音さん』
『え?』
『俺も一緒に行ってきて良いですか?』
『あ、ああ、うん』

私の返事を最後まで聞くことも無く、未来君は落合さんの後を追いかけて、給湯室を飛び出して行く。

その足音が遠く消えるのを聞きながら、さっきまで普通に会話していた落合さんが、急に未来君に冷たくあしらうような態度を取ったのが気になった。

『落合さん、いきなりどうしたんだろう…』

独り言のようにつぶやくも、近くで一緒に見ていたはずの関君からは、それに対しての返答はなく、その代わり抑揚のない声音で名前を呼ばれた。

『倉沢』
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