Sweet break Ⅳ
戸口にもたれたまま腕を組む関君を見上げれば、少し不機嫌そうな顔をする。

『お前、簑島に下の名前で呼ばせてるのか?』

関君は中央の指先で眼鏡を押し上げると、咎めるような口調で問われる。

『うん。未来君が名字じゃなくて、名前の方が呼びやすいからって…』
『少し慣れ合いすぎじゃないか…社内に”倉沢”姓が二人いるわけでもないだろ』

唐突に説教じみたことを言われ、その不躾な言い方にムッとする。

『…そうかな?仕事教えるのに、あんまり堅苦しいのも嫌だよ』
『そういう問題じゃないだろ…第一、緊張感が無さ過ぎる』
『有りすぎるのもやりずらいでしょ…それに、私の方だって、”未来君”って言ってるもの』
『男と女じゃ違う』
『それって差別だよ、関君』
『…』

珍しく一歩も引かない私に、関君が驚いたような顔をする。

もちろん関君の言いたいこともわかるけれど、私には私の考えもあってのことで、ことこれについては、今更言われたところで、考えを曲げるつもりは無かった。

『…未来君には一応、名前呼びは社内だけで、対外的にはちゃんと名字で呼ばせてる』
『そうか』

関君が小さな溜息を突く。

『なら良い。そもそも、簑島はお前の…だからな、俺が口だすことじゃない』

それは、分かりきっていることだけれど、妙に突き放されたようにも感じた。

…逆を言えば、ならば”落合は俺の(担当)だ”と言われたようで、またも胸の奥がざわついてしまう。
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