Sweet break Ⅳ
時刻は定時を10分程すぎ、予定のあるものは関君の後ろを早々に退社していき、今この壁の向こうにある執務室に残っているのは、実質残業確定組だけのよう。
『未来君戻ってくるだろうから、私、席戻るね』
”明日、落合さんと出張なの?”
喉元まで出かかったセリフは口には出せず、そのまま部屋を出ようとすれば、スッと出口を塞ぐように出された関君の腕により、行く手を阻まれる。
『…え』
瞬間戸惑い、黙ったままの関君を見上げれば、関君は執務室に視線を向け、誰もこちらに関心を向けていないのを確認すると、今度は私の右手を取り、部屋の内側に引っ張られた。
『…っ!?』
給湯室には扉が無いために、通路を往来する人にはオープンなってしまうけれど、折しもその内側の壁面に背を着けた状態になった私は、入口に立つ関君が盾になり、外からは完全に死角になる。
『関く…』
『週末の件、悪かったな』
関君はぶっきらぼうに、先ほどのもらったメッセージでは無かった謝罪を、口にする。
こんな風に二人きりの状況下で、仕事中にも拘らずプライベートな会話をするのは、いつもだったら舞い上がってしまうのに、今日は何故だかそんな気分にはなれそうになかった。
『別に…仕事なら仕方ないよ』
無理矢理笑顔を作ろうとしたけれど、それもままならず、随分単調な言い方になってしまう。