Sweet break Ⅳ
『で、何だ?…気になることがあるんだろ?言えよ』

壁に背を着け、微動だにせず腕を組んだままの関君は、どうやら私の返答をいつまででも待つつもりのようで、もうこちらが観念せざる負えない。

『…そんな大したことじゃないんだけど…ね…』
『大した事じゃないかどうかは、俺が判断する』
『さっき…落合さんから、関君と一緒に出張だって、その…一泊だって聞いて、彼女も関君と同じホテル泊まるのかなって、考えたらちょっと…その嫌だなって言うか…』
『フッ…お前』

いきなり隣で噴き出す関君。

見れば、腕を組んだまま口元に手を当て、笑いを堪えている様子。

『な、何よ』
『いや…ちょっと驚いた』
『驚く?』
『嫉妬…するんだな、お前も』
『!!』

指摘されて、初めて認識した。

確かに、このところずっと燻っていた、このモヤモヤの原因は、関君が言うように落合さんに対するヤキモチかもしれない。

笑われたことによる腹立たしさよりも、自分が後輩に対してそういった感情を抱いたことへの気恥ずかしさの方が勝ってしまう。

『うぅ…恥ずかしい』

肩を震わしながらも笑いを堪え、何故か嬉しそうにも見える関君の隣で、熱くなる頬を自覚すれば、両手で頬を抑えて下を向き、羞恥に耐える。

『朱音』

関君が唐突に、”倉沢”ではなく私の名を呼ぶので、思わず顔を上げると

『安心しろ。当たり前だが、落合とは仕事上のサポートする側とされる側以外に、何の感情も無い。…俺が言うのもおかしいが、向こうもそういう気が無い分、だからこそやりやすいのかもしれない』
『関君…彼女に、その…そういう気が無いってどうしてわかるのよ?』
『多少なりともこういったことの経験を積んでるからな、それくらいわかる』
『…経験』
『フッ…いちいち反応するなよ。単に察しが良いかどうかだけの話だ』

関君の優しい声音が、単純にも私の不安を緩和していく。
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