Sweet break Ⅳ
『どうして関君がここに…』
『お前のことだ。おおかた、執務室に戻って俺に会うのが嫌で、頼まれた使いの帰りは、出来るだけ時間をかけて戻る為に、この東階段を使うに決まってる』

まるで、”お前の行動パターンなど手に取るように分かる”とでも言いたげな口調に、見透かされている恥ずかしさと共に、僅かに苛立ちを覚える。

『悪いけど、私、急いでるから…』

上司に渡すよう頼まれた書類を抱えなおすと、関君の視線から逃れるように、階下に降りる階段に向かうも直ぐに腕を掴まれ、引き戻される。

『っ!』
『俺の話はまだ終わってない』

側面の壁に追いやられ、掴まれた腕はすぐに解放されるものの、ここから逃がすまいと、関君が片手を壁に付き、それは傍から見たら所謂”壁ドン”されている様にも見えるのだろう。

前にもこんなシチュエーションがあったような気もするけど、ここは社内の誰もが通る通路で、案の定、通り過ぎる人(主に女子社員)の好奇の目が痛い。

『な、何す…』
『あのメールは何だ』

こちらの言うことなど聞く耳は無いのか、周りなどお構いなしで険しい目つきで顔を近づけ、糾弾するように責められる。

関君の言う”メール”とは、おそらく私が昼休みに送ったもので、今週末の約束を取りやめたい旨と、この交際自体をもう一度考えたいという内容のもの。

どちらも、関君にとっては、大した痛手にならないはずのものだ。

『…送った通りよ』

関君の鋭い目線から視線を外し、出来るだけ抑揚のない声音でそう答えた。
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