揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
12月に入ってから、両社のスケジュールがなかなか合わず、延び延びになっていたプロジェクト成功を祝う会が、忘年会を兼ねて行われた。


こちらは本田常務以下、あちらは高橋副社長以下の全スタッフが集まって、賑やかに会は執り行われた。


その会の最中、鈴と高橋は2人で話す時間があった。


「高橋さん、改めてお疲れ様でした。そして、プロジェクトを成功に導いて下さり、ありがとうございました。」


そう言って頭を下げた鈴に


「僕だけの力じゃない。ウチの連中も、御社のメンバーも、誰一人欠けても、今回のプロジェクトはうまく行かなかっただろう。そういう意味では最高のチームだった。神野さん、ありがとう。そして、これからも引き続き、よろしく。」


笑顔で高橋は言う。その笑顔にときめく心を鈴は懸命に抑える。


「でも、これからは今までのように頻繁に神野さんとも会えなくなる。それは寂しいな。」


「高橋さん・・・。」


「だから、一刻も早く、次のプロジェクトを立ち上げないとな。」


そう冗談めかして言う高橋に、鈴は複雑な思いを抱いていた。


それからは、師走の慌ただしさと共に、時が過ぎていった。


そんな中、思い悩んだ挙げ句


「本来の担当である営業事務の方に専念させていただきたい。」


という言い方で、鈴はこれ以上の高橋との接触を避けようとしたが、本田常務も営業部長も、それは困ると難色を示し


「バカなことを言わないでくれ。次のプロジェクトが立ち上がったら、当然鈴ちゃんの力が必要なんだ。」


と仕事面では、真面目な飯田にも釘を刺されてしまった。


そして迎えた年末のある日。この日は夫は、飯田達同期生と忘年会とのことで、鈴は1人、家で弁当でも買って帰って、ノンビリしようかなんて考えてながら、パソコンを叩いていた。


そんなところに、デスクの電話が鳴った。受話器を取り上げた鈴の耳に響いて来た声は


『高橋です。』


「あっ、お世話になっております、神野です。」


鈴は受話器を持ったまま、お辞儀をしていた。


『今、大丈夫かな?』


「はい。」


いつもと少し違う様子の高橋に、鈴が緊張気味に返事をすると



『実は、神野さんに折り入って話がある。』


「えっ・・・?」


『突然ですまんが、今夜、時間を取れないか?』


思わぬ高橋の言葉に、動揺する鈴。


(断らなきゃ。)


そう思ったはずなのに


「かしこまりました。」


鈴の口から出たのは、その意思に反した言葉だった。
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