揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
1人侘しく、弁当をつつきながら、達也は昨日の妻との会話を思い出していた。


だいたいの経緯は、鈴が梨乃達とやり取りしていたLINEでわかっていたが、やはり本人の口から直接聞きたいこともあった。


「高橋さんは、お取引先の副社長さん。社長さんの長男で、将来会社を継がれることになる方です。」


まさかとは思っていたが、自分と大して変わらない年齢にも関わらず、副社長、それも御曹司とは・・・相手のスペックの高さに、達也は正直ショックを受けた。


「秋から、チームに入った私は、高橋さんとお仕事をご一緒させていただいているうちに、徐々に惹かれて、憧れの想いを抱くようになってしまった。もちろん、その気持ちが許されないことくらいはわかってた。でも、どうしようもなかった。そんな自分が怖くて・・・高橋さんと離れなきゃ、そう思ったんです。」


「だから、あの時退職したいって言ったのか?」


「はい。」


(俺があの時、賛成してれば、こんなことにはなってなかったということか。でもそんなこと、わかるかよ。)


達也は内心で吐き捨てる。


「そうこうしているうちに、高橋さんからお誘いをいただき、お会いしました。その日があなたが飲み会で遅かったのは、本当にたまたまです。そしてその時に、会社に誘ってもらったの。迷ったけど、年が明けて、お目に掛かってお断りした。最初にお会いした時が、凄い高級なフレンチレストランに連れて行かれて。だから今回は場所を変えて下さいってお願いして、あのレストランにしてもらったんだけど・・・それを雅紀さんに見られてしまってたんだね。」


「・・・。」


「高橋さんと2人で会ったのは、その2回だけ。嘘じゃないよ。」


「どうやって、連絡取ってたんだ?」


「えっ?」


「LINEとかメールでやり取りしてる形跡がなかったし、通話履歴も残ってなかった。その都度、消してたのか?」


「ううん。高橋さんとはLINEもメアドも交換してない。ケー番だって知りません。高橋さんとのやり取りは、全て会社の電話です。」


「・・・。」


「達也、今回のことは、あくまで私の問題なの。あなたがいるのに、あなたを愛してるのに、私は高橋さんに心惹かれてしまった。私は高橋さんから、1度も口説かれてない。信じてもらえないかもしれないけど、2人で会った時も、会社に誘われた以外は、仕事の話や雑談をしてただけ。私が勝手に彼に心惹かれ、浮き足立ってしまっただけなの。本当にごめんなさい。」


必死にそう訴える妻を、達也は冷ややかに見ていた。
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