揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
(したたかな奴だ。)
達也は思わざるを得ない、無論高橋のことだ。
これは自分の問題、鈴はそう言った。口説かれたことがないとも言っているが、話を聞けば聞くほど、高橋が妻に下心たっぷりなのが、嫌というほど伝わって来る。
妻は、高橋から自分の仕事ぶりを褒められたことが嬉しかったと言う。今回のプロジェクトのMVPとまで言ったらしい。
(見え透いたことを言うじゃないか。)
鈴は、プロジェクトがだいぶ進んでいた秋口からの途中参加だ。鈴が頑張ったことは知ってるし、その活躍を否定する気はないが、MVPは持ち上げ過ぎだろう。
鈴のような真面目で仕事熱心な女性を振り向かせるなら、容姿を褒めたりするのは、かえって警戒心を抱かれるだけ。その仕事ぶりを褒めた方が、喜ばれるのではないか?
そうして距離を縮め、相手が自分への好意を深めているのを見計らって、自分の会社に勧誘する。ヘッドハンティングを装っているが、物理的な距離を縮め、相手を籠絡しやすくするのが狙い。下心はおくびにも出さず、でも高級車に乗って現れ、高級レストランで食事というシチュエーションはキチンと用意する。
それでも落ちなければ、今度は日帰り出張に誘う。泊まりなんて、露骨なことをしなくても、ちょっと日常を離れた場所に1日、2人きりで連れ出してしまえば・・・そんな意図が透けて見える。
こんなまどろっこしいことをしてるのは、無論、鈴が既婚者、人妻だからだ。今の時点で、達也が怒鳴り込んだとしても
「僕は鈴さんとあくまで、ビジネス上でのお付き合いしかしていない。」
と言われてしまえば、どうしようもないだろう。
そして鈴である。現時点で鈴が高橋と深い仲になってる可能性は、どうやらなさそうだ。だが、高橋の手の中で踊らされ、蜘蛛の巣にかかった虫のように、着実に絡め取られようとしていることに、彼女は気付いていない。
鈴は言った。
「これは私の問題なの。」
無意識なのか、意識的なのかはわからないが、そう言って高橋を庇っている。そして
「達也を愛してる、達也を大切にしたい。」
と言いながら、高橋に心奪われていることを公然と認めて、とりつくおうともしない。
(どうしたらいいんだ・・・。)
昨夜、達也は「お前はこれからどうしたいんだ?」と鈴を責め、感情の赴くままに鈴を家から追い出した。
しかし今、こうして一人になってみると、自分こそが、これからどうしたいのか、どうすればいいのか、何も分からず、何も決められていないことに気付いて愕然とする。
(やっぱり俺は、ただのヘタれだ・・・。)
思わず頭を抱えた達也の耳に、LINEの着信音が響く。ハッとして携帯を開くと鈴からだった。
『お疲れ様でした、私は今、実家に着きました。実は・・・報告しなければならないことがあります。明日の出張、やはりお断りすることが出来ませんでした。約束を守れなくてごめんなさい。』
(鈴・・・。)
達也は呆然と立ち尽くした。
達也は思わざるを得ない、無論高橋のことだ。
これは自分の問題、鈴はそう言った。口説かれたことがないとも言っているが、話を聞けば聞くほど、高橋が妻に下心たっぷりなのが、嫌というほど伝わって来る。
妻は、高橋から自分の仕事ぶりを褒められたことが嬉しかったと言う。今回のプロジェクトのMVPとまで言ったらしい。
(見え透いたことを言うじゃないか。)
鈴は、プロジェクトがだいぶ進んでいた秋口からの途中参加だ。鈴が頑張ったことは知ってるし、その活躍を否定する気はないが、MVPは持ち上げ過ぎだろう。
鈴のような真面目で仕事熱心な女性を振り向かせるなら、容姿を褒めたりするのは、かえって警戒心を抱かれるだけ。その仕事ぶりを褒めた方が、喜ばれるのではないか?
そうして距離を縮め、相手が自分への好意を深めているのを見計らって、自分の会社に勧誘する。ヘッドハンティングを装っているが、物理的な距離を縮め、相手を籠絡しやすくするのが狙い。下心はおくびにも出さず、でも高級車に乗って現れ、高級レストランで食事というシチュエーションはキチンと用意する。
それでも落ちなければ、今度は日帰り出張に誘う。泊まりなんて、露骨なことをしなくても、ちょっと日常を離れた場所に1日、2人きりで連れ出してしまえば・・・そんな意図が透けて見える。
こんなまどろっこしいことをしてるのは、無論、鈴が既婚者、人妻だからだ。今の時点で、達也が怒鳴り込んだとしても
「僕は鈴さんとあくまで、ビジネス上でのお付き合いしかしていない。」
と言われてしまえば、どうしようもないだろう。
そして鈴である。現時点で鈴が高橋と深い仲になってる可能性は、どうやらなさそうだ。だが、高橋の手の中で踊らされ、蜘蛛の巣にかかった虫のように、着実に絡め取られようとしていることに、彼女は気付いていない。
鈴は言った。
「これは私の問題なの。」
無意識なのか、意識的なのかはわからないが、そう言って高橋を庇っている。そして
「達也を愛してる、達也を大切にしたい。」
と言いながら、高橋に心奪われていることを公然と認めて、とりつくおうともしない。
(どうしたらいいんだ・・・。)
昨夜、達也は「お前はこれからどうしたいんだ?」と鈴を責め、感情の赴くままに鈴を家から追い出した。
しかし今、こうして一人になってみると、自分こそが、これからどうしたいのか、どうすればいいのか、何も分からず、何も決められていないことに気付いて愕然とする。
(やっぱり俺は、ただのヘタれだ・・・。)
思わず頭を抱えた達也の耳に、LINEの着信音が響く。ハッとして携帯を開くと鈴からだった。
『お疲れ様でした、私は今、実家に着きました。実は・・・報告しなければならないことがあります。明日の出張、やはりお断りすることが出来ませんでした。約束を守れなくてごめんなさい。』
(鈴・・・。)
達也は呆然と立ち尽くした。