揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
座り直して、改めて母の顔を見た鈴は、しかし困惑していた。


(いつまでって言われても・・・それはこっちが聞きたいくらいだよ。)


出て行ってくれ、そう夫に言われて、鈴は家を出た。それ以降、達也とのコミュニケーションは全く取れていない。


翌日、鈴が出張に行く旨のLINEを送ると、達也からは留守電やLINEが入って来たが、鈴はあえて反応しなかった。


そして次の日、今度は出張から帰って来た後、その報告を鈴が送ったが、達也からは何の返信もなかった。


そして、そのまま数日。2人はまさに今、「没交渉」と表現するしかない状況にある。電話もLINEも交わしてない。2人は同じ建物で仕事をしているのだ。その気になれば、いくらでも会うことが出来る、はず。


なのに、それをしようともしない。「意地を張り合ってる」なんて、ある意味まだ可愛げも感じられる状況ではとてもない。事態は、明らかにもっと深刻な状況にある。鈴が返事を出来ないでいると


「だいたい、達也さんとケンカしたって言ってたけど、原因はなんなの?」


普通の母親なら、娘が実家に戻って来たその日に聞いてくるだろうことをようやく、良子が聞いて来る。


今更?と思いながらも、鈴が経緯を説明すると、聞いていた良子の表情が厳しくなる。


「鈴、あなた浮気してたの?」


「いや、それはその・・・。」


「達也さんがいるのに、他の男性を好きになったんでしょ?浮気以外の何なの!」


母にとって、「不倫」「浮気」ほど、この世の中で、唾棄すべきものはないだろう。それを知っている鈴は、母の激怒する姿が容易に想像出来、覚悟を決めたが、一瞬声を荒げた良子は、次に鈴の顔を見ると、1つ大きなため息をついた。


「お母さん・・・?」


予想に反した反応に、鈴が戸惑っていると


「私は心配してたんだよ。」


と良子はポツリとつぶやく。


「だってそうでしょ、あなたはお父さんを否定してない。」


「えっ?」


「普通はね、娘って、年頃になると父親を嫌って、距離を置くようになる。まして、あんなことをした父親なんて、それこそ蛇蝎のように嫌うものよ。だけど鈴は、ずっとあの人に会いたがってたし、あの人を恋しがる素振りは見せても、拒絶する様子は全く見せなかった。」


(それはお母さんが私をあんまり愛してくれなかったからでしょ。)


良子の言葉を聞いて、鈴は咄嗟にそう思ったが、さすがにそれを口にすることは出来ず


「私はお父さんの口から直接、何故、お母さんや私を裏切ったのかを聞きたかっただけ。」


と答えたが


「理由がどうあれ、不倫なんかする方が悪いに決まってるじゃない。あなたは不倫に対する堤防が低すぎる。」


と言う母の口調は厳しかった。
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