揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
妻に送ったLINEが既読になったのを、確認した達也は、携帯を手から離した。これで、伝えるべきことは伝えたからと、義務を果たした気持ちになった反面


(これってLINEで伝えるべきことなのかよ。)


という思いが湧いて来る。だが妻は営業部長に


「一身上の都合もあり、新たな道を歩み出す決心をしました。」


と告げたという。その言葉からは、今の鈴の思いが嫌と言うほど伝わって来る。


(もう全ては終わったってことだ・・・。)


そんな諦めが、達也の胸中に広がっていた。ため息をつきながら、夕飯の後片付けでもするかと、椅子から立ち上がろうとすると、携帯が鳴りだした。


(鈴からか?)


慌てて、携帯を手に取り、ディスプレイに表示された名前を見た達也は


(えっ、なんで・・・?)


と戸惑ったが、無視することも出来ずに、通話ボタンを押す。


『突然すみません、石川です。』


やはり表示通り、鈴の親友の1人、石川梨乃からだった。鈴と3人で、何回か食事したこともあるし、家に遊びに来たこともある梨乃とは、一応ケ-番を交換はしていたが、直接話す機会も必要もないままに来た。それがなぜ今・・・。


『鈴は・・・そちらに戻ってるんですか?』


「いや・・・。」


『そうなんですか。実はこの前の土曜日に鈴、ウチに泊ったんですけど、次の日、朝早く帰って行ったっきり、連絡がとれなくなっちゃって。どうしたのかと思って・・・。』


「今朝、鈴は会社に辞表を出しましたよ。」


達也が低い声でそう言うと、電話の向こうで、梨乃が一瞬息を呑んだのが伝わって来る。


『ということは鈴は・・・。』


「君が、望む方向に舵を切ったってことだろうな。」


『えっ・・・。』


「土曜日に君の家に泊ったんなら、またさんざんあいつにいろいろ言ってくれたんだろう?きっと。」


『それは・・・。』


達也の口調に厳しさが増したのを感じて、梨乃が思わず口ごもると


「いい加減にしろよ!」


とうとう、達也が怒声を放った。


「鈴とあんたのLINE、全部見たんだよ。」


『・・・。』


「鈴から相談受けて、あんた、ただ面白半分にあいつのこと煽ってたよな。出来れば、あいつが不倫に走って、ドロドロに俺達がなればいい。そう思ってたんだろ?」


『そんなことは・・・。』


「お望み通りの展開になって来て、よかったな。」


『私は、鈴に幸せになって欲しいと思ってただけです。』


「俺と一緒にいると、鈴は不幸だって言いたいのか。」


『・・・。』


そう詰問するような達也の言葉に、梨乃の返事はない。
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