揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
2人が入ったのは、居酒屋の個室だった。


「お前と2人で個室は、ゾッとしねぇな。」


冗談めかして、そう言った達也に、しかし飯田は笑わなかった。


同期ではあるが、あまり仲がいいとは言えない2人。これまで2人だけで呑んだり、食事をしたりということは1度もなかった。


そして今、ビールと何品か料理を頼み、改めて向き合った2人の間には、重苦しい空気が流れる。


「飯田、一体・・・?」


なんのつもりだと、問い掛けようとした達也の言葉は


「お前、鈴ちゃんとこれからどうするつもりなんだ?」


と言う飯田の厳しい口調の言葉に遮られた。


「去年の忘年会のこと、覚えてるか?」


「えっ?」


「あの時、俺はお前に警告を発した。」


飯田が何を言ってるのか、さっぱり分からず、達也が戸惑っていると


「全くの偶然だが、俺はあの日、鈴ちゃんが高橋に呼び出されて、2人で会うことを知っていた。」


と驚くべきことを言い出す飯田。


「あの日、俺は年末の挨拶で、高橋のもとを訪ねていた。話が終わり、辞そうとすると高橋が『飯田さん、このあと、ご予定は?』と聞いて来た。たぶん、なにもなければ、俺を呑みにでも誘おうとしたんだろう。俺がこれから戻って、同期の連中と忘年会ですと答えると、高橋の表情が微かに緩んだ気がした。まぁ、これは俺の気のせいかもしれないが。」


「・・・。」


「そのあと、社に戻った俺は、高橋から鈴ちゃんに連絡が入ったことを聞いた。時間的には、俺が高橋の会社を出た直後くらいで、鈴ちゃんの応対は普通だったそうだが、既に彼女が退社していたことから、俺はピンと来た。」


「・・・。」


「高橋には雑談の流れで、鈴ちゃんの旦那と俺が同期であることを話していた。きっと、チャンス到来と思ったに違いないって。」


「飯田・・・。」


「だから、俺はあのゲームを仕掛けた。俺の考え過ぎかもしれない、そうであって欲しいと思いながら。だが、鈴ちゃんからお前に返信はなかった。普通なら、お前達夫婦ならあり得ないと俺は思った。あのあと、お前をいろいろディスったが、それはお前の嫁さんやばいぞ、しっかりしろ、そういうメッセージを込めたつもりだったんだ。」


それはあまりに意外な飯田の言葉だった。運ばれて来た酒や料理に、お互い全く手を付けることなく、2人は向き合い続ける。
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