揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
「おい、達也!」


慌てて雅紀が追い掛けて来る。


「いいのかよ、このまま鈴ちゃんと別れちゃって。せめて連絡先くらい・・・。」


そう言ってくれる雅紀に


「女子高生じゃな。やっぱり気が引けるよ。」


と答える達也。


「何言ってんだよ。高校生って言ったって、3つ下なだけじゃねぇか。そんなこと言ってたら、お前1コ下までしか、相手に出来ないってことになっちまうぜ。」


雅紀のいうことはもっともだった。しかし女子高生うんぬんは、所詮言い訳。要は鈴に


「よかったら、連絡先、交換しようよ。」


この一言を言うことが出来なかっただけなのだ。


達也は後ろを振り返った。メガネを忘れた彼には、もう鈴の後ろ姿を確認することは出来なかった。


そしてそれが、大学生神野達也に訪れた最初で、最後の恋のチャンスだった。


メガネなしでは生きられないはずの自分が、それを忘れる大失態のお陰で、ハッキリわからなかったが、それでも鈴は明らかに美人で可愛かった。スタイルも、そして性格もよかった。


あんな子と仲良くなれた奇跡。しかしその奇跡を自分の勇気の無さで、台無しにした。


(バカなことをした・・・。)


そのあと、折に触れ、鈴のことを思い出しては、達也は後悔し続けることになった。


そうこうしているうちに、就職活動。イケてはいなかったが、それなりに真面目だった達也は、無事に某食品メーカーに就職が決まった。営業は俺には厳しいな、と思っていると、配属されたのは総務部。


(会社って言うのは、ちゃんと人を見てるものなんだな。)


と、感心させられた。


そして入社。目立つ存在ではなかったが、仕事はコツコツと、真面目に取り組んだ。


その一方で、恋愛にはますます臆病になった。


(下手なことをして、もししくじったら、気まずくなって、会社にも居づらくなる。それは困る。)


鈴とのことを反省し、今度は積極的に・・・とはならずに、逆に恋愛にいよいよ後ろ向きになってしまうところが、ヘタれの面目躍如だった。


こうして、女子から恋愛に興味のない、人畜無害な存在として、それなりに重宝されながら、達也は入社4年目を迎えた。
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