揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
季節はもうすぐ春。鈴と達也が付き合い始めて、いつの間にか、半年が過ぎようとしていた。


のんびり、ゆっくりのペースがお好みの鈴も、最近はやや戸惑いを覚えるようになっていた。


『付き合った日から、半年過ぎても、あなたって、手も握らない♪』


昔のヒット曲の歌詞ではないが、2人の距離はなかなか縮まらない。


『あなたに付いて行きたい。ちょっぴり気が弱いけど、素敵な人だから♪』


鈴の思いは、やっぱり歌詞の通りだし


(達也さんは紳士だから。)


と思ってはいるけど


(でも、そろそろ・・・ね。)


一歩を踏み出してもいい頃なんじゃないかな、と思ったりもする。


ホワイトデーが過ぎて、少しすると桜前線が北上し始める時期になる。会社のお花見もあるだろうけど、やっぱり2人で桜が見たい。


お彼岸も過ぎ、暑さ寒さも・・・の言葉通り、地下鉄を降り、お堀端の桜並木を見ればまさしく満開。


「春爛漫、だな。」


「うん、きれい・・・。」


2人は、感に堪えないといった表情で、目の前に広がる光景を見つめるが、老若男女の人の波は、絶え間なく押し寄せてきて、足を止めて、ゆっくり眺めを堪能する余裕もない。


「あっ。」


その波に飲まれそうになった鈴は、思わず達也の袖口を掴んだ。ハッと振り向く達也。


「鈴!」


「達也さん。」


「つかまって。」


そして、達也の左手がサッと差し出される。


「ありがとう。」


そう言って、その手を躊躇なく取る鈴。


「大丈夫?」


「うん。」


「よかった。じゃ、行こう。」


「はい。」


こうして、2人は当たり前のように、手を繋いで歩き出した。


(やった。)


そう思って、右の達也を見れば、多少顔が赤くなってはいるけど、繋いだ手は、しっかり握られている。もちろん、鈴も強く握り返す。


そして、その日はもう、2人の手は離れることは、ほとんどなかったし、それ以降は手を繋ぐのも腕を組むのも、自然に出来るようになった。


(そっか。私の方から、自然にうまく誘導すればいいんだ。)


鈴は目から鱗が落ちる思いだった。
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