揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
(そう乗らないなんて、あり得ない。)


心の中で、達也はそう繰り返す。今日のデートコースを選んだ時点で、締めは観覧車ということは、当然想定出来た。


(もし俺が嫌だと言い張れば、鈴はいいよと言ってくれるだろう。でも、それじゃあまりに情けない。)


ヘタれにも、ヘタれなりの意地がある。そして、鈴が勘違いから目覚めることがないように、こんなところで、情けない姿なんかを見せるわけにはいかない。


(大丈夫、なんかとなる。鈴が一緒なら、そっちに気を取られて、高所恐怖症どころじゃないって。たぶん・・・。)


そして、いよいよゴンドラへ。


「行ってらっしゃいませ。」


係員の笑顔に見送られて、扉が閉まる。


せっかくの2人きりの空間、向かい合わせに座るような無粋なことは、当然しない。隣り合わせに座った2人はピッタリと寄り添う。


「大丈夫?」


心配そうに達也を見る鈴。達也の激しい鼓動が伝わって来る。徐々に上がって行くゴンドラ。彼のドキドキは、当然自分と接近していることだけが、原因じゃないはずだ。


「もちろん。それより、夜景が綺麗だよ、ほら。」


精一杯強がって、精一杯の笑顔を浮かべて達也は言う。その言葉に、視線を外に向けた鈴は


「本当だ、綺麗・・・。」


とつぶやく。その横顔にときめく達也。


(やっぱり可愛いわ、俺の彼女。)


なんて、内心悦に入っていた達也だが、次の瞬間、ガタリとゴンドラが揺れ、一瞬にして現実に戻る。


(後ろを見るな、絶対に。)


目をつぶるような無様な真似だけは、絶対に出来ない。達也は必死に平静を装う。


やがて、ゴンドラに


「まもなく、頂上に到着します。」


というアナウンスが流れる。それを聞いて、ハッと達也の顔を見る鈴。


観覧車に乗ったカップルが、頂上に着いた時にするのは・・・キス。前後のゴンドラからの視線が、気にならなくなるこの一瞬で、恋人達は美しい夜景に包まれながら、口付けを交わす。ファーストキスのシチュエーションとしては、これ以上ない状況。いよいよ・・・。


そう期待に胸踊らせた鈴が見たものは・・・身体を硬くし、懸命に前方を見つめ、恐怖に耐える達也の姿だった。


(達也さん・・・。)


鈴の期待は、無残に散った。
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