揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
ゴンドラから降り立った2人を包んでいたのは、なんとも微妙な空気だった。


(やっちまった・・・。)


地上に降り立ち、ホッとした途端、全身から汗が吹き出すのを感じながら、しかし達也は内心、ガックリとうなだれる思いだった。


カップルで観覧車に、それも見渡す限りの美しい夜景に囲まれた状況で乗った以上、何を期待されているか、さしものヘタれも、さすがにわかっていた。


ここは決めなきゃ・・・しかしやっぱりダメだった。ただでさえ、ヘタれには高いハードルなのに、普通なら後押ししてくれるはずのシチュエーションが、逆に作用しては、なす術なし。


何も言わないが、鈴の内心の失望が手に取るように伝わって来て、達也は正直、ここから逃げ出したい思いだった。


手は繋いでいるけど、言葉もなく、黙々と歩く2人。


(どうしたらいいんだ・・・。)


掛ける言葉も見つからず、焦る達也を引っ張るように、鈴は海辺へ出る。眼前に広がるブリッジのライトアップが、目に鮮やかに映る。


「鈴・・・。」


ゴメンと言葉を紡ごうとする達也に


「ごめんね、達也さん。」


と先んじるように、鈴が言う。


「えっ?」


「私のワガママで、あなたに無理させちゃった。本当にごめんなさい。」


「い、いや、そんなことないよ。俺の方こそ・・・。」


まさか鈴に謝られるとは思わず、戸惑う達也。


「ううん、達也さんは優しいね。」


「鈴・・・。」


「大好き。」


と言って、達也を見つめた鈴は、やがてそっと瞳を閉じた。


(これは・・・。)


この意味がわからないようでは、もはや話にならないだろう。一瞬、息を呑んだ達也だったが、やがて差し出されたかのように、目の前にある可憐な唇に自分のそれを、そっと重ねた。


(達也さん・・・。)


待ち望んだ柔らかい感触が降って来て、鈴は身体の中に走る甘い感情に酔いしれる。まだ唇を重ね合わせる以上のことはなかったが、もちろん今の鈴には、それで十分だった。


こうして、また1つ、先に進んだ2人の様子を少し離れたところで見守っているのが怜奈だった。鈴から来るうれし恥ずかしの報告を聞きながら


(あの引っ込み思案で奥手の鈴が、まさか彼氏をリードするようになるなんて。)


と驚く反面


(そんな鈴が、自分のペースで恋を積み重ねられる人と出会ったっていうことなんだから、達也さんはやっぱり鈴の運命の人だったってことなんだな。)


と思わずにはいられなかった。
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