揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
その達也の言葉を聞いた良子は、しかし表情一つ動かさなかった。


「すると、あなたはそういう話をキチンとなさらないうちから、鈴を旅行に連れ出そうとしたんですか?」


「は、はぁ・・・。」


良子の詰問に近い口調に、達也はたじろいだように曖昧な返事をする。


「それは非常識じゃありませんか?」


そう決めつけた母親に


「そんなことないよ。別に今どき、そんなの珍しい話じゃないし、それに・・・今回のことは、私の方から達也さんに提案したことで・・・。」


「なんですって!」


たまりかねて、鈴が口を挟むと、良子の顔色が変わった。


「世間様の風がどう吹いているのかは知らないし、他所様の娘さんがどうされてるのかなんて、興味もないけど、あなたをそんな、はしたない娘に育てた覚えはありませんよ!」


そう鈴を叱りつける良子。


「僕が軽率でした。鈴さんは悪くありません、本当に申し訳ございません。」


慌てて割って入った達也に、良子は視線を戻す。


「もう1つ、お聞きします。神野さんは、ご自分の将来について、どんなビジョンをお持ちですか?」


「えっ?」


「会社員として、上を目指して行かれるおつもりがおありですか?」


いきなり、そんなことを聞かれて、達也は目を白黒させ


「お母さん、いくらなんでも達也さんに失礼よ。」


鈴はたしなめるように言うけど


「これは大事なことよ。」


厳しい口調で、鈴を抑えつけると達也に視線を向ける。


「それは・・・自分の能力の問題はありますが、上を目指す意欲は、人並みには持ってるつもりです。」


静かにそう答えた達也に、良子の表情がやや和らいだ。


「そうですか、それを聞いて少し安心しました。」


「・・・。」


「私の夫だった人は、いわゆるマイホームパパで、そういう面での意欲をほとんど持ち合わせていなかった。それはそれで、1つの生き方かと思ってたけど、家族にいい顔をしている裏で、平気で家族を裏切っていた。なんの取り柄もない最低の男でした。」


「お母さん・・・。」


あまりの言いように、鈴は驚くけど、良子は平然と続ける。


「私は専業主婦になる気はサラサラなかったし、鈴もそんなつもりはないと思いますが、男性たるもの、自分の妻は専業主婦でも食わせていける。そのくらいの気概を持って、仕事に臨んで欲しいものです。」


言いたい放題、聞きたい放題で気が済んたのか、これ以降は、良子も和やかな雰囲気で応対して、1時間程で、達也は鈴の家を後にした。
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