揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
「達也さん、お母さんがいろいろ失礼なことを言って、本当にごめんなさい。」


駅まで送る道すがら、鈴は達也に頭を下げる。


「大丈夫。お母さんは鈴が心配で、しょうがないんだよ。気持ちはわかるし、俺もいろいろ勉強になった。」


遠慮会釈なく、いろいろ言って来た母親に対して、冷静に受け答えし、今、そう言って笑う達也の器の大きさに、鈴はまた惚れ直す思いだった。


もっとも達也の方は


(やれやれ、酷い目に合った。しどろもどろでまともに答えられなかった・・・。)


と内心嘆いていたのだが・・・。


最寄り駅について、駅ビルにあるレストランで食事を共にした2人。


「残念だけど、旅行はいったん取り止めにした方がいいよな。」


「うん・・・せっかくいろいろ計画してもらったのに、ごめんなさい。」


申し訳なさそうにそう言った鈴に


「いいんだよ。君のお母さんの神経を逆なでしてまで、強行することじゃないから。またの機会にしよう。」


達也は柔らかな笑顔で答える。そんな彼の顔を少し見つめたあと、鈴は言った。


「達也さん。」


「うん?」


「ありがとう。」


「えっ、何が?」


そう尋ねる達也に


「嬉しかったの。」


と鈴は、少し顔を赤らめながら答える。


「だってお母さんに、私と結婚を視野に入れて付き合うつもりがあるのかって聞かれて、『僕はそのつもりです』って、ハッキリ言ってくれたでしょ。」


「あ、そのことか。いや、その・・・鈴とそんな話、まだしたことがなかったから、正直どう答えようか迷ったんだけど・・・。勝手にあんな返事しちゃって、ごめんな。まだ鈴は24歳だし、結婚なんて、まだまだ現実の話に思えないだろうし・・・。」


「そんなことありません!」


次の瞬間、鈴は自分でもびっくりするような声を出していた。


「鈴・・・。」


「達也さんがそう思ってくれてたなんて、本当に本当に嬉しくて、光栄で・・・。だって、私なんて、達也さんから見たら、まだまだ子供で物足りないはずだから・・・。だから私、達也さんに相応しいレディになれるように、もっともっと努力します。だから、これからもよろしくお願いします。」


そう言って、真剣な眼差しを向けてくる鈴に


「いやいや・・・鈴は今のままで十分だから、俺なんかにはもったいないくらいの人だから。」


と慌てて達也は言うけど


「ありがとう。達也さんは、本当に優しいね。」


そう言って、目をハートマークにしている鈴。


(ヤバい、また鈴の中で俺の虚像が美化されて行く・・・。)


達也は、密かにため息をついた。
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