揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
「私達の時も、神野さんは優しく接して下さいました。仕事が終わったあと、食事や飲みに連れてっていただいたことも何度か、ありました。でも・・・私達の時は、なんて言うか、ある一線をピシッと引かれていた気がします。言い方は悪いかもしれないですけど、出来る限り事務的に私達に接しようとしてるなって感じてました。」


「上本さん・・・。」


「でも、今は本当に亜弓に寄り添おうとしているというか・・・とにかく私達の時より、距離が近いと思います。」


意外なひなたの指摘に、達也は言葉を失っていたが


「そうか・・・。正直、思うところがあって、君達の時とは、少しやり方を変えてるところはある。だけど、今回は岡田1人だけだから、誤解されないようにアフター5にアイツを誘ったりはしないようにしていたつもりなんだけど・・・。」


とようやく答えた。


「それはわかってます。神野さんが亜弓に下心があるとか、そんなことを言いたいんじゃありません。でも神野さんの方はそうでも、亜弓の方が、どう受け取るかは、また別じゃないでしょうか。」


「えっ?」


「だいたい指導官って、普通に憧れの対象になりがちだと思いませんか?同性でも異性でも。まして異性なら、それが恋愛感情につながる。私も正直言ってあの頃、神野さん、いいなって思いましたもん。」


「おいおい、からかわないでくれよ。」


思わぬカミングアウトに、慌てる達也。


「でも、あの時の神野さんは、私にそういう興味を全く持ってないってオーラ全開でしたから、すぐに諦めました。でも今の神野さんは違うんです。」


「ちょっと待ってよ。俺には鈴がいるんだから、そんなこと・・・。」


「傍から見てて、そう見えるんです。亜弓もそんな神野さんに憧れの思いを抱いてるの、伝わって来ますよ。神野さんは感じませんか?」


「い、いや、正直全く・・・。」


「じゃ、その亜弓の様子に、鈴がやきもきしてるのにも、全然気づいてないんですね?」


「!」


そのひなたの言葉に、達也は愕然となる。


「まぁ今、お話しして、神野さんに全くそんな気がないことは、よくわかりましたけど、その無自覚は鈴にも亜弓にも可哀想だと思います。注意して下さいね。じゃ失礼します。」


そう言って、一礼して自分から離れて行くひなたの後ろ姿を、達也はやや呆然としながら、見送っていた。
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