揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
それから、また少し時が流れた。新入社員達が、無事に正式登用となり、取り敢えず鈴達の手を離れた頃には、梅雨も終わりに近づき、夏本番はもう、まもなく。


人の噂も七十五日、ではないが、一時は周囲が勝手に盛り上がっていた鈴と達也のゴールイン話も、本人達があまり反応を示さないでいるうちに、いつしか静かになった。


正直、その点ではホッとした鈴。仕事では、後輩からは頼られる姉貴分、上司や先輩からの信頼も厚い存在として、退職した香織の穴を十分に埋めている。


「鈴ちゃん、明日取引先に持って行く見積書、上がった?」


この日も、飯田からそう声を掛けられて


「はい。飯田さん、確認お願いします。」


と答えて、書類を手渡す。真剣な眼差しで、目を通していた飯田は


「じゃ、これで上に最終的に通して来る。鈴ちゃん、ありがとう。」


と言ったあと


「でも、よかったよ。」


と続けた。


「何がですか?」


「いや、なんか鈴ちゃん、結婚しちゃうとか、もっぱらの噂だったから。」


「えっ?」


何を言い出したのかと、鈴が戸惑っていると


「遠藤に続いて、鈴ちゃんまで寿退社なんてことにでもなったら、営業部は大打撃だからさ。」


「・・・。」


「まぁ、あんまり早まらない方がいいぜ。それが鈴ちゃんの為でも、俺達の為でもあるんだから。」


とニヤニヤしながら、そう言うと飯田は離れて行く。


かつて、鈴を狙っていた飯田は、さすがにもう以前のようにアタックして来ることはなくなったが、それでも今のようにちょっかいを出して来ることが、たまにある。


気にしないようにはしているのだが、やはり気分のいいものではない。


(仕事は出来る人であることは、間違いないんだけど・・・。)


ビジネスモードの時の飯田は、尊敬に値する先輩だと、鈴は思っている。でも人間的には・・・なのだ。


飯田は現在、鈴の同期で同じ部の本田真純と付き合っている。にも関わらず、真純の見てないところでは、スキあらば、あわよくばみたいな態度で自分に接して来る飯田に、当然好意は抱けない。


「イケメンで仕事が出来て・・・惚れるのもわからなくはないけど、でも・・・真純は男を見る目、ないよね。」


もう1人の同期、寺内未来の心配半分呆れ半分の言葉に、鈴は頷かざるを得ない。


「今の真純は、まさに「恋は盲目」状態。私が何を言っても聞こえないし、見えないからね・・・。その点、鈴は賢明だった。飯田さんと神野さんじゃ、ホント大違いだよ。」


そう言って笑う未来に、笑顔を返したけど、その笑顔ほど、鈴の内心は今、穏やかではなかった。
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