揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
良子が結婚に反対していることは、当然達也は事前に鈴から聞いた。なんとなく自分が良子から好かれていないというか、頼りなく思われていることは、自覚している達也としては、予期出来ることだった。


(今の俺に出来ることは、誠心誠意、お母さんにお願いすることだけだ。)


覚悟を決めて、達也は鈴の家に足を踏み入れた。


硬い表情で迎えた良子に


「本日は、鈴さんとの結婚をお許しいただきたく、参上致しました。」


と切り出した達也は


「鈴さんとは、今から8年前に出会いましたが、その時は僕の勇気がなくて、そのまま別れてしまいました。しかし、3年前、鈴さんが僕の会社に入社されて、まさかの再会を果たした時から、僕は鈴さんこそ、自分の生涯のパートナーになる人だと思い定めて来ました。そして、僕は今日まで、鈴さんに相応しい男になれるように、努めて来たつもりです。」


良子の顔を真っすぐに見て、言う。


「僕は鈴さんを心から愛しております。そして、生涯鈴さんを大切にして行きます。何があっても鈴さんを守り、鈴さんを幸せにします。どうか、よろしくお願いいたします。」


そう熱弁を奮ったあと、達也は深々と頭を下げた。そんな達也を、良子は静かに見ていたが、やがて口を開いた。


「私は運命論みたいなものには、興味がありませんし、男性が口にする美麗字句にも心は動きません。そういうものに、踊らされるには、私は年を取りましたし、いろんなことを経験し過ぎました。」


「お母さん・・・。」


相変わらずの身も蓋もない言い方に、思わずたしなめるように声を上げた娘に、チラッと視線を送った良子は


「でも今は、私が求婚されてるわけじゃありませんからね。娘がそういうものの真贋を見破れるようになるには、まだまだ時間が掛かるでしょう。」


と言うと、フッとため息をついた。これには鈴も達也も、なんて反応していいか分からず、言葉を失っていると


「私の夫だった人も、今のあなたと同じような言葉で私に求婚し、同じような言葉で、私の両親に結婚の許可を求めてました。」


とポツンとつぶやくように言う良子。


「達也さん。」


「はい。」


「私は、鈴には結婚はまだ早いと思ってます。それはあなたがお相手だから、ということではありません。鈴が私の目から見て、まだあまりにも未熟だからです。生まれも育ちも違う男性と一つの家庭を築くということが、どんなに大変なことか、鈴にはまだ本当にわかっているようには見えないからです。」


「・・・。」
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