揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
「達也さん、あなたにはそんな鈴をキチンと導き、包んで行く自信と覚悟がおありですか?」


そう尋ねられた達也は


「僕自身、そんなに立派な人間だとは思っていません。欠点もあり、未熟な面も多々あると思います。しかし、それを補い合い、助け合い、そしてお互いを信頼し合うのが夫婦だと思っています。僕は鈴さんとなら、そういう家庭を築き、そういう夫婦になれると思って、彼女にプロポーズをしたんです。」


と答えた。沈黙がその場を包む。どのくらい、経ったのだろうか。


「達也さん。」


良子はもう1度、呼び掛ける。


「はい。」


「1つお聞きします。」


「はい。」


「あなたは生涯鈴を、鈴だけを愛し抜くと誓えますか?」


その母の言葉に、鈴はハッと息を呑んで、達也を見た。


「はい、もちろんです。」


達也は、なんの躊躇いもなく、力強く答えた。


(達也さん・・・。)


そんな達也の態度に、鈴は感動を含んだ眼差しで彼を見つめる。


「わかりました。私から申し上げることは、もう何もありません。娘を・・・よろしくお願いいたします。」


そう言って、頭を下げた母親を、一瞬呆然と見つめた鈴は、次に


「お母さん、ありがとう。」


と言うと、目に涙を溢れ出させながら、頭を下げる。


「お母さん、ありがとうございます。鈴さんは、僕が必ず幸せにします。」


達也も万感の思いで、良子に頭を下げる。


「達也さん、この子は年頃の多感な時期に父親に裏切られ、母親である私も、仕事に追われ、満足に寄り添ってあげられなかった愛情薄い家庭だったにも関わらず、素直で純真な娘に育ってくれました。これからは、あなたがこの子に、満腔の愛情を注いでやって下さい。」


「はい、わかりました。」


「あと、もう1つだけ。この子の可能性を、あなたと結婚することで摘むことだけはしないでやって下さい。よろしくお願いします。」


「もちろんです。鈴さんが仕事と家庭を両立出来るように、精一杯、僕もサポートします。」


こうして、難関と思われた良子の同意が得られ、2人の結婚は大きく前進した。


「達也さん、本当にありがとう。今日の達也さんは、いつもにも増して、頼もしくって、素敵だった。さすがは私の未来の旦那様。」


達也を駅まで送る帰り道。そんなことを言って、甘えて腕を組んで来る鈴に


「ありがとう。」


と照れながら答えた達也は


「でも、俺と結婚して、鈴があの家を出たら、お母さんは一人ぼっちになっちゃうな。」


とつぶやくように言う。


「達也さん・・・。」


「さすがに同居は無理だけど、なるべく顔を出してあげるようにしような。」


そんな言葉をくれた達也に


「うん、ありがとう。」


鈴は嬉しそうに頷いた。
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