揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
「ドラ息子が、突然結婚するとか寝言言い出して、どんな人を連れて来るかと思ったら、こんな美人で聡明そうなお嬢さんで
・・・こっちは腰を抜かしちゃったよ。」


佐知子もまくしたてるように言う。


「鈴さん、この子はウチの人が言う通り、気も利かず、なにをやらせても、まともに出来やしないヘタれで、本当に恥ずかしいばかりの倅なんですよ。そんなのが、あなたのような方をどう、だまくらかしたのかは存じませんが、お詫びの言葉もございません。どうか、悪い夢でも見たと思って、お許し下さい。」


と言うと、冗談とはとても思えない表情で頭を下げる。


「ちょっと待ってくれよ。二人共、どういつもりだ!」


さすがに腹を立てて、そう怒鳴るように言った達也に


「バカ。あんたこそ、こんな大それたことをしでかして、どう責任取るつもりだい!」


と佐知子が怒鳴り返したところで、呆然としていた鈴が、ついに吹き出した。


「ご心配いただいて、ありがとうございます。でも私は騙されてませんから。私は達也さんと真剣にお付き合いさせていただいて、達也さんと生涯を共にしたいと思ったんです。達也さんの優しくて、頼もしいところに、私は惹かれたんです。ご両親の教育の賜物だと思います。私のようなふつつか者こそ、達也さんの妻に相応しいかどうかわかりませんが、どうかよろしくお願いいたします。」


そう改めて、鈴が頭を下げると、ポカンと鈴を見つめていた高也と佐知子が


「母さん、こりゃ鈴さん、本気だよ。」


「本当、ありがたいねぇ。」


と言い合うと、今度は拝まんばかりに、鈴に礼を言って来る。


「そんな、お二人とも、止めて下さい。」


さすがに困惑する鈴と、大喜びする両親を、達也は複雑な表情で、眺めるしかなかった。


それからは、特上の寿司が注文され、鈴は文字通りの大歓待を受けた。


「いいかい、達也。あんた、もしも鈴さんを粗末するようなことがあったら、承知しないからね。」


「母さんの言う通りだ。お前なんぞ、鈴さんに見放されたら、二度と結婚なんか出来んからな。誠心誠意、鈴さんに尽くすんだぞ。わかったな!」


「わ、わかってるよ・・・。」


実の両親に腐すようなことばかりを言われ、すっかり立場を失っている達也を


「達也さんは私をとっても大事にしてくれてますから、大丈夫です。私の方こそ、達也さんに誠心誠意お尽くししますので、よろしくお願いします。」


と鈴がフォローすると、両親がまた感激して、鈴を褒めそやす。


かくして、全く居心地の悪い顔合わせが終了し、名残惜しそうに鈴を見送る両親を背に、車を走らせ出した達也の顔は完全に引きつっていた。


「自分の息子を、彼女の前で、あそこまで貶める親なんて、聞いたことねぇよ。」


愚痴る達也に


「達也さん、ご両親に愛されてるんだね。」


と鈴は笑顔。


「どこが。親子関係、真剣に見直したくなったよ。」


と尚もむくれる達也に


「ううん。私が達也さんと結婚することをあんなに喜んで、歓迎してくれたんだもん。達也さんの奥さんに相応しいって認めて貰えたんだなって、私、嬉しかった。」


「鈴・・・。」


「あとね、達也さんのお父さんが、お母さんのことをずっと惚気けてたの。」


「ああ、あの酔っ払いが、なに言ってのかと恥ずかしくなったよ。ゴメンな。」


「羨ましかったな。」


「えっ?」


「私も将来、自分の子供が結婚相手を連れて来た時、達也さんに『俺の嫁さんは最高だ。』って自慢してもらえるようになりたい。心からそう思ったよ。だから、頑張って、いい奥さんになるからね。」


そう言った鈴は、満面の笑みを達也に向けた。
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