揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
結局、鈴にとって、それが高校時代のたった1つの淡く、そして切ない思い出になった。


これ以降、怜奈がいくら誘っても、鈴は積極的に動こうとはしなかったし、女子高では最大の出会いのチャンスとされる文化祭でも、黙々と与えられた裏方としての役割を果たすだけでは、何か起ころうはずもなかった。


そうこうしているうちに、受験勉強が本格化する時期になり、鈴の生活はほぼそれ一色となった。


無事に第一志望の大学に合格を果たし、もう登校するのも、卒業式の予行練習と当日の2日を残すのみ。


久しぶりに羽を伸ばす日々を送る鈴は、この日、怜奈と映画を見たあと、カフェでお茶をしていた。


「でも、いい映画だったね。」


怜奈が言う。この日見た映画は、2人が好きな俳優が主演する恋愛物で、偶然出会った男女が、お互い好意を抱きながらも、その思いを告げられずに離れてしまったものの、歳月を経て、再会して、ついに結ばれるという内容だった。


「そうだね。」


それに対して、鈴の返事は素っ気なかったが、見ている最中に、彼女が涙ぐんでいたことには、怜奈は気付いていた。


「達也さんのこと、思い出してたの?」


そう聞いてみると


「うん。」


素直に頷いた鈴は。


(はるか)ちゃんみたいに、私も可愛かったらな。」


とポツンと呟くように言った。


「鈴・・・。」


「そしたら、達也さんだって、私をちゃんと見てくれたろうし、私も達也さんを追い掛けて行けたよね、あの時。」


(そりゃ、今をときめくヒロイン女優さんには勝てないかもしれないけど、鈴だって、十分可愛いし、魅力的なんだけどな。それにハッキリ言えば、主演の賢人(けんと)くんほど、達也さん、カッコよくなかったし。)


そう思った怜奈は、でもそれを口にはしなかった。


「大学に入ったらさ、バッタリ達也さんと再会したりしないかな、なんて妄想を何度もしたけど、そんなに話がうまく行くわけないし。」


そう言うと、苦笑気味の笑顔を浮かべる鈴。


「私、バカだよね。あの人がどこの大学に通ってるのかも聞かなかった。半日一緒にいて、何、話したんだろうな。今じゃほとんど思い出せない。」


「・・・。」


「連絡先、聞かれなかったんだから、達也さんは私に興味がなかったことは明白。だから、私も諦めたんだけど、こんなに引きずるんなら、勇気を出して、追い掛けるべきだった。」


(全くその通りだけど、鈴には出来る相談じゃなかったよ。多分私だって・・・。)


そんなことを思っている怜奈に


「私、決めたんだ。」


「鈴?」


「大人しくて、引っ込み思案の鈴は、高校と一緒に卒業。大学デビューしたら、何事も積極的に行きますから。だって、もうこんな思いは、したくないから。だから怜奈も見ててよね。」


そう明るく言った鈴に、頷いてはみたものの、それは言うは易く・・・だよね。怜奈には、そんな思いが拭えなかった。
< 8 / 148 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop