揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
思い余った達也は、営業部の寺内未来に声を掛けた。


同期入社で、部の同僚でもある未来は、鈴にとっては、夫である自分を除けば、今、社内では1番心許す存在のはずだった。


もし鈴が、業務上の何かトラブルを抱えて悩んでいるなら、未来に相談している可能性が高いと達也は踏んだのだ。


だが、未来の返事は


「最近、鈴とはあんまり話が出来てなくて。でも、少なくても、職場での様子は、特に変わった様子は見えませんよ。」


とのことだった。もちろん、家で本人にも探りを入れてみたが


「うん、大丈夫だよ。年明けからは、事務の方に戻れるかもしれないし、取り敢えず今は頑張るよ。」


と笑顔で答えると


「奥さんが、毎日帰りが遅いと、やっぱり心配になるよね。ごめんね、達也。」


と言って、ペタリと張り付いてくる。それは相変わらずの甘えっぷりで、そんな妻を抱き寄せながら


(やっぱり、俺の思い過ごしか。よし、鈴も頑張ってるんだ、俺だって思い悩んでなんかいられん。これでも何人かの部下を持っている身なんだから、しっかりせんと。)


達也は、気持ちを新たにしていた。


月もだいぶ押し迫って来た。年末年始は世の中の企業がほとんど止まる。必要な備品の発注は、早めにしなければならないし、年末の忙しさを理由に、長時間労働が発生しやすくなる時期なので、それにも目を光らせていなくてはならない。


他部署の手が足りなくなって、ヘルプに入ることが、多くなるのも、この時期だ。


「俺達はなんでも屋だからな。」


かつて、上司や先輩から何度も言われた言葉を、達也は改めて伝えて、部下を引き締めていた。


給与支給日が過ぎ、そろそろ業務の合間を縫って、各部で大掃除が始まり出すと仕事納めも近い。


そんなある日、業務終了後、達也は同期数人と、忘年会を催した。同期の繋がりというのは、やはり格別なもので、年に数回は、こうして集まる。


「みんな、あんまり羽目を外さんでくれよ。」


冒頭に達也は釘を刺す。こういった席は当然プライベートだが、会社帰りの酒の席でトラブルが発生した場合、会社としては知らん顔も出来ない。そういう事故処理の矢面に立たされるのは総務部であり、達也としては、一言言わないわけには、やはりいかない。


しかし、所詮は気の置けない席であり、達也自身を含め、そんな忠告は、やがて雲散霧消するのも、仕方ないことであった。
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