揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
そんな飯田の横で、達也はじっと携帯を見ていた。既に、最後の返信が届いてから5分以上が過ぎたが、達也の送ったメッセージには、既読マークすらつかない。


「既読にもならねぇのか?」


「ああ。」


同僚の言葉に、少し硬い表情で頷いた達也に


「社内きってと評判のおしどり夫婦の内情も一皮剝けばってとこか?」


とからかうように飯田は言う。


「おい、飯田よせよ。」


「鈴ちゃん、まだ帰ってなかったんだ。それだけの話だよ。」


と周りはフォローの声を上げるが


「こんな時間まで、どこ行ってるんだ。お前の愛妻は?」


と尚も絡んで来る飯田。


「友達と飯でも食ってるんだろ、ずっと忙しかったからな。」


飯田の態度は、かなり頭に来たが、酒の席でのことだ。達也はことさら表情を消して、そう答えると、携帯をしまった。


達也が帰路についたのは、10時過ぎだった。終電にはまだ時間はあったが、飯田の顔を見てるのも、なんか癪だったし、飲み会を楽しむ気分にもなれなくなったからだ。


携帯を開くが、依然、メッセージに既読は付かない。


(本当に鈴は今、どこにいるんだ?)


疑問が湧いて来るのを、抑えられない。少なくとも家にいないことは確かだろう。


飯田が宴会に参加していたくらいだから、仕事はあり得ない。いや、鈴は昨夜


「達也は明日の夜、忘年会だよね。じゃ、私もお夕飯は外食かお弁当で済ませちゃおうかな。」


と言っていた。外食も誰かと、というようなニュアンスは感じられなかった。なのに、何故この時間になっても家にいないのか?


グルグルと頭の中をいろんな思考が渦巻く。今、どこなんだ?そうLINEしようかと思った時だ。


ようやく既読が付いたと思ったら、続いて『どうしたの?』とメッセージが届いた。


それを見た達也は、鈴に電話を掛ける。鈴はすぐに出た。


『もしもし、達也?あの・・・。』


「今、どこなんだ?」 


なにかを言いかけた鈴を遮るように、尋ねた達也は、少し声を荒げていた。


『ごめんなさい。今まで梨乃と会ってたから・・・久しぶりだったんで、話がいろいろ弾んじゃって。LINEに気が付かなかったの。』


「そうか、梨乃ちゃんとな。急に約束したのか?」


『う、うん。ダメ元で連絡してみたら、会えるって言うからね。それで、何だったの、あのLINE?』


そこで、達也は一連の経緯を鈴に話した。


『そうだったんだ。ごめんね、飯田さんに負けるなんて、ちょっと悔しかったね。』


「・・・。」


『私もこれから電車に乗るから。帰るまで1時間くらい掛かっちゃうかな?達也の方が、ウチに着くの、早いかも。あ、電車来たから乗っちゃうね。じゃ、また後で。気をつけて帰って来てね。』


そう明るく言うと、鈴は電話を切った。


(あいつ、場所を言わなかった。俺は今どこにいると聞いたのに、梨乃ちゃんと会ってたとだけ答えて、場所を言わなかった・・・。)


沸きあがって来る心のざわめきを、達也は抑えることが出来なかった。
< 84 / 148 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop