揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
話は、2週間ほど遡る。この日は、取引先との打ち合わせが先方の都合で、夕方からあるので、帰りが遅くなると妻から申告されていた達也は、一人ならと手っ取り早く、弁当を買い、帰宅した。


晩酌代わりの缶ビールを片手に、寛いでいると、傍らの携帯が鳴り出した。


誰かと思えば


(雅紀か。)


ディスプレイには大学時代からの友人、川嶋雅紀の名前が表示されていた。


「おう、ご無沙汰。」


女子は社会に出ても、学生時代の友人との繋がりを大切にする人が多い。一方男子は、疎遠になるケースが圧倒的だ。メール、LINEでたまにでもやり取りがあるなんていい方で、会ったり、電話で話したりなんてことは滅多にない。


大学時代は、相棒という表現がピッタリなくらい、行動を共にしていた達也と雅紀も、社会に出てからは1年に1,2度会えば、いい方だろう。


そんな友人からの久しぶりの電話、何事だろうと思いながら、ただやはりなんとなく嬉しい気が、達也はしていた。


『今、家か?』


前置きもなく、いきなりそう聞いて来た雅紀の声は、やや緊迫感を帯びてるように聞こえた。


「ああ。」


『鈴ちゃんは?』


「今日は仕事で、遅くなるって言ってたから、まだ帰って来てない。」


『そうか・・・。』


そう答えた雅紀の声音は暗く、そのあと沈黙が訪れる。


「おい、どうしたんだよ?」


なぜか、言葉を発しようとしない雅紀にたまりかねて、達也が言うと


『達也。俺・・・今、会社の近くにいるんだが・・・。』


ここまで言って、言葉を切った雅紀は、次に言い辛そうに


『さっき・・・鈴ちゃんを見た。』


「えっ?」


『男と2人で、レストランに入って行った。』


「お前、何、言って・・・。」


るんだよ、という言葉が紡げなかった。そのくらい達也は動揺していた。


『男の身なりは立派だった。普通のサラリーマンには、見えなかった。』


「ちょっと待てよ。お前の会社とウチの会社じゃ、全然・・・。」


方向が違うだろう、そう言いかけて、その言葉に何の意味もないことに達也は気が付く。妻は今日は取引先との打ち合わせで外出したのだ。そしてその場所がどこなのか、自分は知らないのだから。


『俺だって・・・見間違いだ、見間違いであって欲しい、そう思ったよ。だが、鈴ちゃんは今、家にいない。それが現実だ。』


「・・・。」


『もちろん、ビジネスの話をしてるのかもしれない。だがあのレストランは、どちらかと言えば・・・男女がデートを楽しむ所だ。』


なぜか済まなそうにそう言ったその雅紀の言葉が、達也の耳には、やたら遠くから聞こえた。
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