揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
鈴が帰ってきたのは、午後10時を少し過ぎた頃だった。
「ごめんね~。打ち合わせが終わったあと、お取引先の方から、食事に誘われちゃって。いろいろお話してたら、遅くなっちゃった。」
そう言いながら、達也の横にポスンと腰を下ろした鈴は、甘えるように達也にもたれかかる。
「そうなんだ。どこに行ったんだ、居酒屋か?」
そんな鈴を抱き寄せながら、達也はさりげなく尋ねる。
「ううん、レストラン。そこそこ高そうなとこだったから、慌てて遠慮したんだけど、『うちの従業員の慰労も兼ねてますから、どうかご遠慮なく。』って言ってもらっちゃったんで、それで。」
「何人かで行ったのか?」
「うん。先方様と私達で、6人かな。」
その鈴の答えに、達也は思わず、彼女の肩を抱いている手に力が入るが、懸命に平静を装う。
「フーン、随分気前がいい人なんだな。」
「そうだね。でも結構な散財だったみたいだから、次回からは誘われても、断らなきゃまずいよね。」
そう言って笑った鈴の顔に、近づいた達也は、いきなり妻の唇を奪う。突然のことで、鈴は驚いたようだが、しかし抗いはしない。しばらく、お互いの唇をむさぼり合っていた2人だが、やがて、達也の手が胸元に伸びて来たのを感じた鈴は
「ダメ。」
と身体を離した。
「なんで?」
「達也こそ、急にどうしたの?」
「こういうことに理由なんかないよ。」
「今日はダメ。だって・・・もう遅いし・・・ごめんね。」
「・・・。」
不満そうに黙る達也に、鈴は
「明日にしよ?明日なら、早く帰って来られるし。ね、そうしよう?」
取り繕うようにそう言うと
「じゃ、着替えて来るね。」
逃げるように立ち上がった。そんな妻の後ろ姿をにらむように見ていた達也は、もう外で済ませて来たから、ノ-サンキュ-ってことか・・・とは思っていない。
実はこんなことをお前に知らせた以上、責任があるからと、雅紀が連絡をくれたあとも、なんと現地にとどまり、状況を見届けてくれていたのだ。
それによると、9時前にレストランから出てきた2人は、特に甘い様子を見せることもなく、ごく一般的な別れの挨拶を交わすと、その場で別れたという。鈴がそのまま真っすぐに帰宅したのは、時間から見ても間違いない。
『こんなことをお前に知らせた俺が言うのもなんだが、短気は起こすなよ。』
そう言って、雅紀は電話を切った。
(短気は起こすな・・・か。)
達也は、その雅紀の言葉を、心の中で反芻する。短気を起こすつもりはない。しかし、愛する妻は、今、疑惑の人に堕ちた。
妻はウソをついた。男と2人きりの食事だったのを、複数での会食と偽って、自分に告げた。妻として、男と2人で食事したことを夫に堂々と告げることは出来ないだろう。しかし、それ以前に、そもそも、なぜそんなことをしたのか?
それに、達也はもう1つ気付いていた。年末、彼は妻の行動に疑念を抱いたことがあった。妻と一時的に連絡がつかなくなったのだ。
ようやく連絡が付き、どこにいるのか尋ねた自分に、妻はそれには答えずに、友人と会っていた、あと1時間ほどで帰れるとだけ答えた。その時間は、今日の妻の帰宅所要時間に、ほぼ符合する。
偶然かもしれない。しかし
(今日が初めてのことじゃない。間違いない。)
達也はそう、確信していた。
「ごめんね~。打ち合わせが終わったあと、お取引先の方から、食事に誘われちゃって。いろいろお話してたら、遅くなっちゃった。」
そう言いながら、達也の横にポスンと腰を下ろした鈴は、甘えるように達也にもたれかかる。
「そうなんだ。どこに行ったんだ、居酒屋か?」
そんな鈴を抱き寄せながら、達也はさりげなく尋ねる。
「ううん、レストラン。そこそこ高そうなとこだったから、慌てて遠慮したんだけど、『うちの従業員の慰労も兼ねてますから、どうかご遠慮なく。』って言ってもらっちゃったんで、それで。」
「何人かで行ったのか?」
「うん。先方様と私達で、6人かな。」
その鈴の答えに、達也は思わず、彼女の肩を抱いている手に力が入るが、懸命に平静を装う。
「フーン、随分気前がいい人なんだな。」
「そうだね。でも結構な散財だったみたいだから、次回からは誘われても、断らなきゃまずいよね。」
そう言って笑った鈴の顔に、近づいた達也は、いきなり妻の唇を奪う。突然のことで、鈴は驚いたようだが、しかし抗いはしない。しばらく、お互いの唇をむさぼり合っていた2人だが、やがて、達也の手が胸元に伸びて来たのを感じた鈴は
「ダメ。」
と身体を離した。
「なんで?」
「達也こそ、急にどうしたの?」
「こういうことに理由なんかないよ。」
「今日はダメ。だって・・・もう遅いし・・・ごめんね。」
「・・・。」
不満そうに黙る達也に、鈴は
「明日にしよ?明日なら、早く帰って来られるし。ね、そうしよう?」
取り繕うようにそう言うと
「じゃ、着替えて来るね。」
逃げるように立ち上がった。そんな妻の後ろ姿をにらむように見ていた達也は、もう外で済ませて来たから、ノ-サンキュ-ってことか・・・とは思っていない。
実はこんなことをお前に知らせた以上、責任があるからと、雅紀が連絡をくれたあとも、なんと現地にとどまり、状況を見届けてくれていたのだ。
それによると、9時前にレストランから出てきた2人は、特に甘い様子を見せることもなく、ごく一般的な別れの挨拶を交わすと、その場で別れたという。鈴がそのまま真っすぐに帰宅したのは、時間から見ても間違いない。
『こんなことをお前に知らせた俺が言うのもなんだが、短気は起こすなよ。』
そう言って、雅紀は電話を切った。
(短気は起こすな・・・か。)
達也は、その雅紀の言葉を、心の中で反芻する。短気を起こすつもりはない。しかし、愛する妻は、今、疑惑の人に堕ちた。
妻はウソをついた。男と2人きりの食事だったのを、複数での会食と偽って、自分に告げた。妻として、男と2人で食事したことを夫に堂々と告げることは出来ないだろう。しかし、それ以前に、そもそも、なぜそんなことをしたのか?
それに、達也はもう1つ気付いていた。年末、彼は妻の行動に疑念を抱いたことがあった。妻と一時的に連絡がつかなくなったのだ。
ようやく連絡が付き、どこにいるのか尋ねた自分に、妻はそれには答えずに、友人と会っていた、あと1時間ほどで帰れるとだけ答えた。その時間は、今日の妻の帰宅所要時間に、ほぼ符合する。
偶然かもしれない。しかし
(今日が初めてのことじゃない。間違いない。)
達也はそう、確信していた。