揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
翌日、達也は伝手を通じて、調べてみた。飯田に相談すれば、煽られ、騒ぎが大きくなりかねないし、未来に相談すれば、鈴に筒抜けになる恐れがある。相手を慎重に選ぶ必要があった。


昨日の打ち合わせは、確かに存在した。時間も16時から。場所は相手企業の会議室、昨年末に自社の商品を、欧州に流通させる為の橋渡しをしてくれた商社。今の自社にとっては、最重要とも言える取引先だ。


こちらの出席者は、鈴を含む4人。相手の企業は、このプロジェクトの主務である副社長以下、やはり4人。


(副社長?そんな上の役職の人が、直接関わってるのか・・・。)


達也は驚くが、昨日の雅紀の話によれば、鈴と一緒にいた男はせいぜい30代前半。自分達と、ほとんど年格好は変わらないとのことだったので、別の人物なのだろう。


ミーティングは昨年来から続いており、案件が成就したあとも、回数こそ減ったものの、定期的に行われており、メンバーは変わっていないという。


昨日は、ミーティング終了後はそのまま解散。懇親会のようなものが、そのあと開かれたという報告はない。鈴達は、それぞれ社に連絡を入れ、直帰の許可を得て、帰宅の途についた・・・ことになっている。


しかし実際には、鈴は相手の男と示し合わせて、そのあと落ち合っているわけだ。


ちょっと調べれば、これだけのことが、すくにわかる。しかし、雅紀からの連絡がなければ、当然達也もこんなことをしようとは思わなかった。


まさに盲点をつかれたわけで、妻への信頼を逆手に取られた達也のショックは大きかった。


更にショックだったのは、自分が年末に疑念を以前抱いた日は、ミーティングは行われていなかった。つまり鈴はあの日、自分の帰りが遅くなることを奇貨として、男と会っていたことになる。


もっとも、その日に、本当に鈴が男に会っていたという確証はない。梨乃に会っていたと言ってるから、彼女に確かめればいいのだが、口裏を合わせているかもしれないし、梨乃が鈴を庇う可能性も高い。


(なんで、鈴をこんなにまで、疑わなきゃならないんだ。)


達也は情けなくも悲しくなる。しかし、鈴が不倫をしていると、まだ決まったわけではない。


少なくとも、昨日、鈴と男は、食事をしただけで別れている。別れの挨拶の様子も、ラブラブの雰囲気は全くなかったと、雅紀は言う。短気は起こすな、雅紀が昨日そう言ったのは、それが理由だ。


しかし、食事中にどんな会話を交わし、どんな雰囲気だったのかは、わからないし、挨拶の時は、人目を気にしたのかもしれない。


疑心暗鬼は深まるばかりだった。
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