揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
⑮
それは奇妙な光景だった。夫は妻の秘密を知り、妻もまた、夫が秘密に気付いていることを知った。
しかしそれから数日は何事もなかったように、時が流れた。いや、2人の間には、普段とは全く違うぎこちない空気が流れてはいたが、それをまるで感じていないかのように、お互いに振る舞っていた。
お互いが、お互いの出方を伺っている。そんな表現がピッタリな情景だった。夫婦としての信頼関係が崩壊しようとしているにも関わらず、その現実から2人とも目を逸らして、認めようとしないようでもあった。
だが、そんなことをいつまでも、続けていけるはずがなかった。
その日も仕事が終わり、帰り着いた自宅で、夫婦は夕食を共にしていた。当たり障りのない空虚な会話を交わしながら。
しかし、それも終わりに近づいた頃、妻が言い出した。
「あの・・・先日話した日帰り出張なんだけど・・・日程が正式に決まって、明後日に行くことになったから。」
「そうか、随分直前に決まるんだな。」
「うん、ご一緒するお取引先の方が、いろいろ多忙な方で、スケジュールがなかなか決まらなかったんだ。」
「そうなんだ、わかった。」
そう答えた夫は、妻から視線を逸らし、茶を口に運んだ。そんな夫を、妻は少し眺めていたが
「ねぇ、本当に行ってもいいの?」
と確認するように尋ねる。その妻の言葉に
「いいも悪いも仕事なんだろ?俺が行くなと言ったら、止められるのかよ?」
と視線を戻して答えた夫の言葉には、冷たい響きがあった。そして訪れる沈黙。それに耐えられなくなった妻は
「なんで、なんにも言ってくれないの?」
と訴えるように言った。
「もう全部知ってるんでしょ?携帯、見たんでしょ?」
そう続けた妻に対して
「それを知ってるってことは、君も俺の携帯を見たってことだな。もう、無法地帯だな、この家は。そして俺達夫婦は。」
そう言って、夫は自嘲気味の笑みを浮かべた後
「ああ、全部知ってるよ。お前が、その出張を心待ちにしていること、そしてその理由もな。」
と吐き捨てるように言った。達也が鈴をお前呼ばわりしたのは、初めてのことだった。
しかしそれから数日は何事もなかったように、時が流れた。いや、2人の間には、普段とは全く違うぎこちない空気が流れてはいたが、それをまるで感じていないかのように、お互いに振る舞っていた。
お互いが、お互いの出方を伺っている。そんな表現がピッタリな情景だった。夫婦としての信頼関係が崩壊しようとしているにも関わらず、その現実から2人とも目を逸らして、認めようとしないようでもあった。
だが、そんなことをいつまでも、続けていけるはずがなかった。
その日も仕事が終わり、帰り着いた自宅で、夫婦は夕食を共にしていた。当たり障りのない空虚な会話を交わしながら。
しかし、それも終わりに近づいた頃、妻が言い出した。
「あの・・・先日話した日帰り出張なんだけど・・・日程が正式に決まって、明後日に行くことになったから。」
「そうか、随分直前に決まるんだな。」
「うん、ご一緒するお取引先の方が、いろいろ多忙な方で、スケジュールがなかなか決まらなかったんだ。」
「そうなんだ、わかった。」
そう答えた夫は、妻から視線を逸らし、茶を口に運んだ。そんな夫を、妻は少し眺めていたが
「ねぇ、本当に行ってもいいの?」
と確認するように尋ねる。その妻の言葉に
「いいも悪いも仕事なんだろ?俺が行くなと言ったら、止められるのかよ?」
と視線を戻して答えた夫の言葉には、冷たい響きがあった。そして訪れる沈黙。それに耐えられなくなった妻は
「なんで、なんにも言ってくれないの?」
と訴えるように言った。
「もう全部知ってるんでしょ?携帯、見たんでしょ?」
そう続けた妻に対して
「それを知ってるってことは、君も俺の携帯を見たってことだな。もう、無法地帯だな、この家は。そして俺達夫婦は。」
そう言って、夫は自嘲気味の笑みを浮かべた後
「ああ、全部知ってるよ。お前が、その出張を心待ちにしていること、そしてその理由もな。」
と吐き捨てるように言った。達也が鈴をお前呼ばわりしたのは、初めてのことだった。