揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
プロジェクトは、順調に進んで行った。同僚達は現地に飛び、鈴は海外への出張こそなかったが、初めて泊まりの出張も経験した。


帰りが遅くなり、家を空ける時間も増え、達也には、迷惑を掛けているという心苦しさは覚えていたが、その一方で、多忙だが、充実した日々を送れていることに満足感もあった。


「これはイケるな。」


「はい。」


営業部のエースとして、この案件の主務を務めている飯田の言葉に、鈴は大きく頷く。


「高橋副社長はやる。あの人と組んでなかったら、ここまで順調には進んで来なかっただろう。」


「そうでしょうね。」


自信家の飯田が、人をこんなに手放しで褒めるのは珍しい。だが、このプロジェクトに途中から参加した鈴の目から見ても、それは全く正当な評価に思えた。


「鈴、内線1番に高橋副社長から。」


「はい。」


この日、未来からそう言われて、鈴は電話を取った。


「お電話替わりました、神野です。」


『ああ、神野さん。高橋です。先日の・・・。』


受話器の向こうの高橋は、挨拶もそこそこに本題に入る。要領よく、用件を伝えて来る高橋に


「かしこまりました。主務の飯田に確認して、折り返しご連絡します。」


と答えた鈴もテキパキと対応し、すぐに高橋に連絡を返す。


『いや、ありがとう。これで安心しました。神野さんは仕事が早くて助かる。』


「いえ、そんな・・・。」


照れる鈴に


『いや、本当に神野さんにお願いすれば、まず間違いないですからね。じゃ、引き続きよろしくお願いします。』


そう答えると、しかし無駄に話を続けることもなく、高橋は電話を切る。しかし高橋の言葉に、鈴の心は踊っていた。


ミーティングで高橋の会社に出向く足取りも軽い。終わったあとに少しお茶をすることも、いつしかルーチンになっていた。そんな時も、仕事の話が大半だったが、それでも合間合間に交わす、他愛のない会話が鈴は嬉しかった。


「鈴ちゃん、高橋さんの心をバッチリ掴んどいてくれよ。あの人は、ウチの会社のこれからに、なくてはならない人だ。」


ある時、飯田にそう言われた鈴は、その言葉にハッとした。飯田がなぜ、そんなことを言ったのか、その真意はわからない。


しかし、いつの間にか、高橋の存在が、自分の中で大きくなっていることに、鈴は気付かされたのだ。


(私は何をやってるの?)


動揺する鈴。
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