眠れない夜をかぞえて
「お前しかいないんだぞ」

弱気になった自分に活を入れて、桜庭を迎えに行った。

控え室の前で桜庭を待つ。

ドアが開くと、桜庭がいた。

メイクを落とし、ほぼ素顔の桜庭は、照れているのか、頬が少し赤くなっている。

下を向いた彼女がいじらしく、俺は手を取った。

「俺が付いてる、気持ちを入れていこう」

緊張している。手は冷たく少し震えていた。

しっかりとその手を握り、スタジオへ向かう。スタジオにはセットが置かれ、準備は整っていた。

しかし、桜庭はそのセットを見たとたん泣きそうな顔をした。

「ちょっとだけ時間を下さい」

唐沢さんと室井さんに断り、スタジオを出る。

「こんな事をさせてしまって申し訳ない。上司として本当に悪いと思ってる。何もしなくていい、俺に身を委ねて少しの間、頑張って欲しい」

「一ノ瀬さん」

泣きそうな顔はもっと泣きそうになっている。

思わず俺は桜庭の手を引き寄せ、抱きしめた。小刻みに震える彼女の肩が細かった。

「俺がそばにいる」

子供をあやすように、背中をトントンと叩く。

彼女は落ち着いてきたのか、震えが止まっていた。

「行こう」

手を引き、スタジオに入ると、セットのベッドに行く。

桜庭の手を離し、バスローブを脱ぐ。スタイリストが用意したシャツを羽織って、ベッドに入った。

もじもじして、バスローブを脱がない桜庭は、バスローブの胸元をぎゅっと握っていた。

「おいで」

手を差し出すと、桜庭は俺の手を取った。

ゆっくりとベッドに入ると、俺に背を向け、バスローブを脱いだ。

メイクに髪を直され、横になる。

すでにここの時点で俺はダメだ。こんな姿で寝るなんて、俺に罰を与えているとしか思えない。

「行くぞ、亮」

「お願いします」


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