眠れない夜をかぞえて
「うそ……」

「ごめん」

唐沢さんの要求は止まることを知らず、大きくなっていく。

「桜庭さん、亮に身を乗せて」

戸惑う彼女に、言った。

「桜庭、おいで」

桜庭は、俺に身を任せた。彼女の髪を梳き、目をしっかりと見る。真上にある彼女の顔。

「桜庭……俺ともう一度恋愛を始めてみないか……?」

言うべきか迷った。川奈から桜庭の彼のことを聞いていたが、知らない素振りをしていた。

桜庭にとって、亡くなった彼以外と付き合うことは、かなり難しいことに思える。

全てを受け止めるだけの覚悟がなければ、彼女とのつきあいは難しく思えた。

だが、俺は彼と張り合う気も、受け止めるという寛大な気持ちもない。だた、彼女を想っているだけだ。

彼女は、じっと俺を見つめながら、一筋の涙を流していた。

「なぜ、泣いている?」

「分からない……」

感情を揺さぶってしまったのだろうか、迷わせて、悩ませてしまったのだろうか。そうであれば、俺が受け止める。

頬をつたう涙をぬぐい、桜庭をしっかりと胸に抱きしめた。


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