眠れない夜をかぞえて
「OK! 終了!」

唐沢さんの声で俺は力が抜けた。やっと終わった。撮影がこれだけ長く感じた事はなかった。

「お疲れ」

俺以上にぐったりしている桜庭は、放心状態だ。

素人で未経験の彼女が、ここまでやってくれたことに感謝したい。

「桜庭、本当に助かった。ありがとう」

桜庭は声も出ないようで、頷くばかり。

スタイリストやメイクが労いの言葉を掛けても、返事をせずに頷いている。よほど疲れたのだろう。

俺はセットから降りて、桜庭の前に回り込むと、手を差し出した。

「控え室に戻るぞ」

「はい」

桜庭は俺の手を取って、立ち上がろうとしたが、腰を抜かしたらしく、床にヘタリ込んだ。

「大丈夫か?」

「力が抜けちゃって」

立ち上がれない彼女を抱き上げた。

「ちょ、ちょっと、立てます、立てますから」

必死で抵抗する桜庭だが、俺が聞くわけもなく、しっかりと掴まっているように少し意地悪をする。

「きゃ」

落とす素振りをして、桜庭をからかう。落とされると思った桜庭は、俺にしがみつくように、腕を首に回した。

桜庭一人くらいは何でもなく抱き上げられる。

それくらいの筋力は持ち合わせている。だが、桜庭が抱えている辛い思いは、受け止めきれるだろか。

「最初からこうすればいいのに」

「意地悪ですね」

照れた顔に、俺を少し睨む顔も混ざった彼女の顔は、ほんのり赤くなっていた。

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