眠れない夜をかぞえて
「お疲れ」

「お疲れさまでした。事務所に終了の報告をしますけど、一ノ瀬さんは直帰しますか?」

「さすがに疲れたよ、直帰すると伝えてくれ」

「わかりました」

スタジオは着々と片付けを進め、メイクやスタイリストはスタジオを上がっていった。

「事務所に連絡をしておきました」

「ありがとう、俺たちも帰るか」

「はい」

少し軽くなった荷物を持って、桜庭と一緒にスタジオを出る。

スタジオの外に出ると、激しい雷と雨になっていた。

「事務所を出るとき、雲が怪しかったですもんね」

「この雲じゃ、暫く雨は止みそうにないな。ここで待ってろ、車をここまで回すから」

一緒に行くという桜庭を振りきって、俺は走って駐車場に向かう。

「っすげえ!」

少し離れているだけの駐車場に向かうだけで、全身びしょ濡れになった。

急いで車のキーを開けると、飛び込むようにして、寸転席に座った。

「シートまで濡れた」

エンジンをかけて、スタジオの正面玄関に急ぐ。車を回すと、心配顔の桜庭が立っていた。

「桜庭! 乗って!」

桜庭が持っていた荷物を受け取り、桜庭を乗せる。

荷物を後部座席から放り込むようにして投げ入れると、俺も車に乗った。

車に乗り込むと、桜庭がバスタオルを広げて待っていた。

「すぐに拭いて下さい」

「ああ」

びしょ濡れの身体は、あっという間にバスタオルをも濡らす。

「送って行くよ」

駅でいいと言う彼女。何時間も胸に抱きしめていた女を、すぐに帰せるほど俺の熱は冷めていない。離れがたさに、ムキになる。

最後には、桜庭が折れて、送って行くことになった。


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