眠れない夜をかぞえて
なるほど、そういうことか。

さすがに結婚するだけのことはある。男の気持ちを良くわかっているようだ。

川奈の言うとおりの気持ちが大きく占めていた。それがこういう事になってしまったとは、予想外だ。

「それで、桜庭が急に休みを取った理由になるのか？」

「私が、私が言ってはいけないことを言ってしまったんです」

「言ってはいけないこと？」

「亡くなった彼、哲也君の名前を出して、彼はもういないんだって……美緒が泣いても抱きしめてくれる哲也君はもういないんだって」

さすがにこれは堪えただろう。

「それで？」

「泣かしてしまって。美緒はポスター撮りに行く前に、「今日の撮影を見て、自分の気持ちがどうなるのか、しっかりと感じてくる」って言ったんです。それなのに」

「そうか……」

「美緒は連絡も絶ってしまって……連絡しても電源も入ってなくて……美緒のマンションにも行ったんです。でも美緒はいなかった。美緒に何かあったらどうしよう……」

そこまで言うと、川奈はさらに泣いた。

これは堪えるだろう。だが、川奈には言わなくちゃだめだという使命感のようなものがあったのだろう。

川奈を責めることは出来ない。

「ちゃんと休むと連絡をしてきたんだ。大丈夫だ。桜庭は、少し休みたいだけなんだ、大丈夫だ」

「……はい」

「今日は仕事が出来るか？」

「大丈夫です」

「少しここで休んで、落ち着いたら仕事に戻りなさい」

「ありがとうございます」

川奈を残して、仕事に戻るが、桜庭の事が心配なのは当たり前で、繋がらない電話に何度もかけてしまった。

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