眠れない夜をかぞえて
俺に背を向け、電話をしてる小さな背中。その背中を抱きしめた。

「続きを言って」

桜庭は驚いたようだったが、そんなことはどうでもいい。

「私は、一ノ瀬さんがす……」

抑えきれない気持ちが、彼女の口をふさいでしまった。触れることが出来た彼女の唇は、泣いて少し震えていた。

「なんで泣いてる?」

「一ノ瀬さんが温かいから……」

もう、悲しみの涙は流させない。頬を伝う涙を指で拭った。

一瞬でも離すと消えてしまいそうで、怖い。

片時も離さず傍にいたい。

リビングに通すと、やっと安心する。

「やっと安心した……」

「すみません」

申し訳なくいう彼女は、俺を見つめてる。確かに桜庭は戻ってきた。

「ここにいてくれるだけでいい、もう黙ってどこへも行くな」

それが俺の本心だ。

愛おしくてしかたがない。俺は桜庭の存在を確かめるように抱きしめた。


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