眠れない夜をかぞえて
「またスキャンダル?」
出勤すると、事務所は慌ただしく動くスタッフでごった返していた。私が働く職場は、芸能事務所だ。朝からスタッフが詰めていることはあまりない。
現場仕事が多いために、事務所にはデスク業務の人間しかいないのが通常なのだ。
背中合わせにデスクがある同期の川奈瑞穂に聞く。
「飲酒運転よ。事故ったらしいわ」
「なんですって? なんてことをしてくれたの? で、誰?」
「外場 悠」
「この間、映画の出演が決まったばかりじゃない。一体何を考えてるのよ」
可愛い顔で人気の俳優だ。読者モデルだった時にスカウトをした新人。読者モデル時代からのファンも多く、バラエティーやCMには起用されていた。
演技はしたことが無かったが、所属事務所の役者のバーターで役を貰い、初演技ながらも好評だった。幸先よい出だしで、事務所をあげてバックアップしようとしていた矢先のスキャンダルだ。頭を抱えるのも無理はない。
「事故を起こしたのは深夜で、一ノ瀬さん、その処理で夜中に事務所に来て、担当マネと対応に追われてるのよ」
統括部長である一ノ瀬さん。中央にあるデスクで厳しい顔をしていた。デスクの周りには、スタッフが集まり、思わしくない顔で協議をしている。
「事故はどの程度?」
「車が中央分離帯に衝突して、車は大破。本人は怪我で済んだけど、入院したわ」
「でも騒ぎ方が尋常じゃないわ、何か他に?」
「女を連れてたのよ、年上の女優、坂田真帆」
「え!? 彼女、結婚してなかった?」
「そう、不倫に事故に飲酒。最悪の三拍子よ」
呆れかえった様子で瑞穂は教えてくれた。でも、なんでそんな情報を知っているのだろう。
「いやに詳しいじゃない? 事故は夜中でしょう?」
「緊急メールを貰ったのよ、一ノ瀬さんから」
「私には来てなかったわよ?」
もしかしてと思い、バッグからスマホを出してメールとラインを確認する。やっぱり来ていない。
「美緒は有休だったでしょう? 一ノ瀬さんが休みを取っているのに連絡をすることはないって」
瑞穂は一ノ瀬さんに視線を送った。
「でも……こんな緊急事態なのに」
「一ノ瀬さんの気遣いよ。まあ、これから対応に追われるんだから、連絡くらい来なくてもいいじゃない。気にしないことよ」
大まかな状況を聞き、仕事に取り掛かる。鳴りやまない電話を処理しなくては。
出勤すると、事務所は慌ただしく動くスタッフでごった返していた。私が働く職場は、芸能事務所だ。朝からスタッフが詰めていることはあまりない。
現場仕事が多いために、事務所にはデスク業務の人間しかいないのが通常なのだ。
背中合わせにデスクがある同期の川奈瑞穂に聞く。
「飲酒運転よ。事故ったらしいわ」
「なんですって? なんてことをしてくれたの? で、誰?」
「外場 悠」
「この間、映画の出演が決まったばかりじゃない。一体何を考えてるのよ」
可愛い顔で人気の俳優だ。読者モデルだった時にスカウトをした新人。読者モデル時代からのファンも多く、バラエティーやCMには起用されていた。
演技はしたことが無かったが、所属事務所の役者のバーターで役を貰い、初演技ながらも好評だった。幸先よい出だしで、事務所をあげてバックアップしようとしていた矢先のスキャンダルだ。頭を抱えるのも無理はない。
「事故を起こしたのは深夜で、一ノ瀬さん、その処理で夜中に事務所に来て、担当マネと対応に追われてるのよ」
統括部長である一ノ瀬さん。中央にあるデスクで厳しい顔をしていた。デスクの周りには、スタッフが集まり、思わしくない顔で協議をしている。
「事故はどの程度?」
「車が中央分離帯に衝突して、車は大破。本人は怪我で済んだけど、入院したわ」
「でも騒ぎ方が尋常じゃないわ、何か他に?」
「女を連れてたのよ、年上の女優、坂田真帆」
「え!? 彼女、結婚してなかった?」
「そう、不倫に事故に飲酒。最悪の三拍子よ」
呆れかえった様子で瑞穂は教えてくれた。でも、なんでそんな情報を知っているのだろう。
「いやに詳しいじゃない? 事故は夜中でしょう?」
「緊急メールを貰ったのよ、一ノ瀬さんから」
「私には来てなかったわよ?」
もしかしてと思い、バッグからスマホを出してメールとラインを確認する。やっぱり来ていない。
「美緒は有休だったでしょう? 一ノ瀬さんが休みを取っているのに連絡をすることはないって」
瑞穂は一ノ瀬さんに視線を送った。
「でも……こんな緊急事態なのに」
「一ノ瀬さんの気遣いよ。まあ、これから対応に追われるんだから、連絡くらい来なくてもいいじゃない。気にしないことよ」
大まかな状況を聞き、仕事に取り掛かる。鳴りやまない電話を処理しなくては。