眠れない夜をかぞえて
「お茶のセッティングをして、資料を会議室に持っていく。それから、コンプライアンス講習の一日目に来るタレント分の契約書を作成。契約書とコンプライアンスで一石二鳥だわ」

一ノ瀬さんの忙しさが私達に移ってしまったのか、段取りも考えずに作業に移ってしまった。ゆっくりと慌てず考えれば、段取りよくできる。落ち着かなくては。

「先に会議室の準備をしてくるわ」

「わかった」

給湯室で人数分のコーヒーカップを用意して、保温のポットにコーヒーを移し替える。菓子を小皿に置き、トレイにのせた。

総務がある場所は、不特定多数の人間が出入りする。応接セットや簡単な打ち合わせが出来るカフェのようなカウンターがあったり、会社としては賑やかだ。

給湯室といっても立派なキッチンがある。私のマンションより立派かもしれない。家族向けとまで大げさじゃないけど、ここで会食は十分できる。

総務と同じフロアにある会議室の準備が整い、瑞穂が来た。

「ものすごく暑かった。冷房を入れて来たけど、会議までに冷えるかしら」

瑞穂は首筋に汗が流れていた。よほど暑かったのだろう。確かに会議室は西向きだ。室内の温度も高いはず。

「会議までには冷えるわよ」

「ちょっと水」

手で顔を仰いで、冷蔵庫からミネラルウォーターをごくりと一気に飲み干す。

「あー美味しい」

「私がカップを持って行くから、お菓子を持って来てくれる?」

「了解。ねえ、今日しーちゃんはどうしたの?」

「夏休みよ」

「そうだった」

「あ、忘れてたわ、一ノ瀬さんに夏休みを順番にとって欲しいって言われていたんだったわ」

「あ、私決まってる。渉と旅行に行くから二泊三日。よろしく~」

「あっそ」

毎年旅行に行っているから、そんなことだろうと思っていたけど、私はどうしようか。

哲也を奪った夏は大嫌いだ。一緒に過ごした夏はいつも日焼をしていた。

それが今はどうだろう、色白で通っているのだから笑ってしまう。
< 24 / 132 >

この作品をシェア

pagetop