眠れない夜をかぞえて
事務所に戻ると、マスコミからのファックスとメールが届いていた。

事務所にはまだスタッフが数人、残っていて、一ノ瀬さんから指示を仰ぐ。

私は、一ノ瀬さんと事務所にいるスタッフにコーヒーを淹れ、パソコンを立ち上げた。

「桜庭。桜庭はあがって」

「いいえ、メールチェックと、対応だけしますから」

「悪い」

「とんでもないです」

メールを開けると、マスコミ各社からのメールが届いていた。

どこで嗅ぎつけるのか、情報収集をするのが本当に早い。

事務所だって、マネージャーからの報告待ちなんだから、コメントを出せるわけがない。

だから返信の文章は決まっているのだ。

「一ノ瀬さん、いつものコメントでメールの返信をしました」

「わかった」

夜だというのに、今日の事務所は昼間のように騒がしい。

若狭あゆみも、辛いはずだ。スキャンダルに、仕事の不満、病気と一ノ瀬さんを襲う問題事は、一筋縄では解決しなさそうだ。

事務としてヘルプしか出来ないけど、少しは役に立ちたい。

「ほかに出来ることはありませんか?」

「いや、もう遅いし、桜庭はあがって。マネージャーからの連絡もまだだし、検査に時間がかかっているようだ。また明日頼むよ」

「分かりました。一ノ瀬さん、これでも飲んでください。私の秘密兵器です」

デスクにしまってある栄養ドリンク。これで目が覚めることもある。一ノ瀬さんに効くか分からないけれど、少しは役に立つだろう。

「お、サンキュ。いただくよ」

「すみません、お先に失礼します」

「お疲れ」

何もすることが無いのに、いても邪魔なだけだ。それよりも早く帰って明日に備えた方が良い。帰る時は、一ノ瀬さんの疲れた笑顔が気になった。


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