眠れない夜をかぞえて
実のところ、栄養ドリンクは毎日飲んでいた。

以前に増して、哲也の夢を見るようになった。あれだけ悲しそうな顔をしていた哲也だったのに、少しずつ表情が柔らかくなり、最近は微笑んでくれるようになっていた。

笑って欲しいと思っていた私の願いが届いたみたいで嬉しい。

表情の変化は、哲也の言いたいことが変わって来たからだろうか。

さすがに夜中に目が覚めることはなかったけど、明け方には目が覚めていた。というより、哲也に起こされているような感覚だった。

この暑さで寝不足は辛い。そうじゃなくても暑さには弱くて、すぐに頭が痛くなるのだ。これからますます忙しくなるのに、倒れたりしたら大変だ。

「昨日は大変だったみたいね」

瑞穂は、朝出勤すると、開口一番、若狭あゆみのことを聞いて来た。

「そうなのよ、見て、どの局も若狭あゆみの話題よ」

事務所には、キー局の放送が常に観られるように、7台のテレビが設置されていた。

入院した病院も、すぐにマスコミに分かるところになり、レポーターが病院前から中継をしていた。

テレビ画面の前では、事務所のスタッフと一ノ瀬さんが腕を組んで厳しい顔で観ていた。

レギュラーが多いタレントは、スケジュールの組み直しと謝罪に追われて、大変なのだ。

「おはようござまいす」

「おはよう、昨日は悪かったな」

「とんでもないです。……何時にお帰りになったんですか?」

「ああ、あれからすぐに帰ったよ、心配するな」

「そうですか」

日増しに疲れて行く一ノ瀬さんの顔。管理職は大変だ。

無理をして欲しくない、特に夏は。睡眠不足や徹夜はもっての外だ。

家族を悲しませるような行為はしてはいけない。哲也と同じことになってはいけないのだ。

もし一ノ瀬さんがそうなってしまったら、私は。私はなんだ? 急に一ノ瀬さんが浮かぶ。一ノ瀬さんがどうだと言うのだろう。

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