眠れない夜をかぞえて
「若狭あゆみだけど、現場復帰に一か月は必要らしいわ」

瑞穂が言った。

「結局何が原因?」

「凄く勉強家で、努力をする子らしいの。食レポがあまりうまくないと自分で思っていたらしくて、時間があると、いろいろな料理を作っては練習をしていたらしいの。今回は鶏肉を使ったらしいんだけど、どうやら中まで火が通ってなかったらしいわ」

「かわいそうに」

「鶏肉は火加減が難しいからね」

「本人もショックだったでしょうね」

「マネージャーによると、皆に迷惑をかけてしまって申し訳ないって泣いているらしいわ。引退したいとまで言って落ち込んでるって」

「引退って……そこまで思いつめなくても。原因が遊びじゃなくて、仕事の幅を広げるために勉強していた結果なんだから」

「まじめなのね、だから仕事が舞い込んでくるんだわ」

「ほんとね」

すっかりおばさんのようにうなずく二人。顔を見合わせて思わず笑ってしまった。思ったことは同じだったようだ。

「ねえ、今週のどこかで夜に時間取れる?」

「私の用事はないけど、仕事がどうだろう。ここのところトラブル続きだから」

「そうか……あ、じゃあ、週末」

「週末? 週末はデートじゃないの?」

毎週末はデートで仕事はしたくないが瑞穂の口癖だ。私よりも弟である彼氏を優先しているのに珍しい。

「いいの。時間と場所は後でね」

「分かった」

静かな時はのんびりとしているのに、問題がおこると立て続けに起こる。分散できないものか。

「しーちゃん、ちょっと」

「は~い」

夏休みで海に行ったという彼女は、真っ黒に日焼けをしていた。美人さんなのに、日焼を気にしない所も、男らしくて何だか素敵だ。
< 29 / 132 >

この作品をシェア

pagetop