眠れない夜をかぞえて
「ここだわ」
誰もいない平日の午後にドアが閉まっているとしたら、一ノ瀬さんしかいない。
そっとドアを開けると、何も掛けずに眠っている一ノ瀬さんがいた。倒れ込むように眠ったのだろう、かけ布団の上に横になっている。
「冷房で風邪を引いちゃうわ」
身体の下敷きになってしまっている布団を無理やり剥がすと、一ノ瀬さんが起きてしまう。隣の部屋に行って、かけ布団を持って来た。
足元からそっと布団をかけて行くと、本当に疲れた顔をして眠っている一ノ瀬さんがいた。
冷えすぎたエアコンの温度を上げて、もう一度様子を見る。
少し髪が乱れていて、無意識に髪に手を伸ばしていた。額に垂れた髪をあげた時、手を掴まれた。
「びっくりした……桜庭?」
横になっていた一ノ瀬さんは、私の手を掴むと、飛び上がるようにして身体を起こした。
「す、すみません」
良く寝ていて、起こさないようにしていたのに、申し訳ないことをした。
「なんでここが分かった?」
「ベッドタイムのスタジオ撮影に持って行く物をチェックしたので、確認していただこうとしたんですが一ノ瀬さんがここにいるって聞いて」
「そうか……悪かったな」
一ノ瀬さんは直ぐに立ち上がれないようで、項垂れた。疲れているんだ。なのに、起こしてしまって本当にどうしよう。
「今、何時だ?」
「もう一度眠れます? 起こしに来ますから。本当にすみません」
もう、頭を下げるしかない。
「いや、起きるよ」
「ごめんなさい、起こしてしまって……先に戻ってます……一ノ瀬さん?」
仮眠室から出ようとした私の手を一ノ瀬さんが握ったままだった。
「あの、一ノ瀬さん……?」
「少しだけ、ここにいてくれないか?」
「え?」
「少しだけでいい……」
縋るような目で見られて、私は、ベッドに座った。
「昨日すぐに帰ったなんて、嘘だったんですね。徹夜でここにいたなんて」
「嘘をつくつもりじゃなかったんだ」
「私を気遣ってくれたんですね」
そんな話をしながらも、一ノ瀬さんは掴んだ私の手を離そうとしなかった。
それに私も振り解くことはしなかった。全然嫌じゃなくて、むしろ手から伝わる体温が心地良かった。その感じが何を意味しているのか、自分でも分からない。
今、隣に並んで座っている一ノ瀬さんに感じているのは、上司じゃなくて、異性を感じてしまっている。その証拠に、胸がドキドキしている。こんな感情は忘れていた。
誰もいない平日の午後にドアが閉まっているとしたら、一ノ瀬さんしかいない。
そっとドアを開けると、何も掛けずに眠っている一ノ瀬さんがいた。倒れ込むように眠ったのだろう、かけ布団の上に横になっている。
「冷房で風邪を引いちゃうわ」
身体の下敷きになってしまっている布団を無理やり剥がすと、一ノ瀬さんが起きてしまう。隣の部屋に行って、かけ布団を持って来た。
足元からそっと布団をかけて行くと、本当に疲れた顔をして眠っている一ノ瀬さんがいた。
冷えすぎたエアコンの温度を上げて、もう一度様子を見る。
少し髪が乱れていて、無意識に髪に手を伸ばしていた。額に垂れた髪をあげた時、手を掴まれた。
「びっくりした……桜庭?」
横になっていた一ノ瀬さんは、私の手を掴むと、飛び上がるようにして身体を起こした。
「す、すみません」
良く寝ていて、起こさないようにしていたのに、申し訳ないことをした。
「なんでここが分かった?」
「ベッドタイムのスタジオ撮影に持って行く物をチェックしたので、確認していただこうとしたんですが一ノ瀬さんがここにいるって聞いて」
「そうか……悪かったな」
一ノ瀬さんは直ぐに立ち上がれないようで、項垂れた。疲れているんだ。なのに、起こしてしまって本当にどうしよう。
「今、何時だ?」
「もう一度眠れます? 起こしに来ますから。本当にすみません」
もう、頭を下げるしかない。
「いや、起きるよ」
「ごめんなさい、起こしてしまって……先に戻ってます……一ノ瀬さん?」
仮眠室から出ようとした私の手を一ノ瀬さんが握ったままだった。
「あの、一ノ瀬さん……?」
「少しだけ、ここにいてくれないか?」
「え?」
「少しだけでいい……」
縋るような目で見られて、私は、ベッドに座った。
「昨日すぐに帰ったなんて、嘘だったんですね。徹夜でここにいたなんて」
「嘘をつくつもりじゃなかったんだ」
「私を気遣ってくれたんですね」
そんな話をしながらも、一ノ瀬さんは掴んだ私の手を離そうとしなかった。
それに私も振り解くことはしなかった。全然嫌じゃなくて、むしろ手から伝わる体温が心地良かった。その感じが何を意味しているのか、自分でも分からない。
今、隣に並んで座っている一ノ瀬さんに感じているのは、上司じゃなくて、異性を感じてしまっている。その証拠に、胸がドキドキしている。こんな感情は忘れていた。