眠れない夜をかぞえて
やっぱり平日に瑞穂の誘いを受けることは出来なかった。

一ノ瀬さんの状態を見て、早く帰ることなど出来ず、瑞穂と二人で業務を分担した。

一ノ瀬さんがモデルだと教えると、

「う……そ……でしょう?」

ちょっとやそっとのことでは動じない瑞穂が、言葉に詰まった。

「スタジオ行きたい! 美緒変わって!」

お調子者と言うか、なんというか、凄く興奮している。

「変わってもいいよ、一ノ瀬さんを見たいなら」

私じゃなきゃいけないと言うことはない。ただ、担当になっただけなんだから。

「まさか……本当にそう思ってるの? 一ノ瀬さんは美緒がいいのよ」

「ねえ、この間から、ずっとそんなこと言ってるけど?」

「分からないのは、美緒だけよ」

謎の一言を残して、あれだけ興奮していた瑞穂は、クールに言った。

瑞穂の誘いは、土曜日の今日、夜に食事を一緒にという約束になった。

家に居て平日の疲れを取りたかったけれど、瑞穂の誘いは無下に出来ない。

「真剣な顔で話があるっていうのよ? なんだと思う?」

哲也は満面の笑顔だけど、返事はない。

夢の中の哲也は悲しそうな顔から、微笑むくらいの顔に変化があって嬉しかったけど、ここの所夢をみない。

残業続きで、疲れて深い眠りについているからだろうか。とても寂しい。今、哲也に会えるのは夢の中だけなのに、それも叶わないのだろうか。

平日のたまった家事をして、ゆっくりと過ごす。哲也に会えなかったせいか、朝はゆっくりと起きた。

テレビは最強の友達だ。起きている時は常に点けている。

うるさいくらいがいいのだ。静けさが嫌いになったのはやっぱり哲也がいなくなってからだろうか。おしゃべりで、大口をたたくくせに何も出来ない哲也。

そんな哲也を意外とおせっかいで世話好きの私が、手を出してなんでもやってしまう。

哲也の為にならないと思いながらも、ついついやってしまっていた。

「少し早く出て、買い物でもしようかな」

暇でテレビをぼーっと見ているよりいいかもしれない。夏物バーゲンも見たいし。

瑞穂によると、人気のイタリアンの店を予約したらしいので、それに見合った服を選ぶ。


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