眠れない夜をかぞえて
「美緒……お祝いしてくれる?」

「もちろんよ、おめでとう、瑞穂」

「ありがとう」

瑞穂は涙ぐんだ。

初めて見る瑞穂の涙。いつも気丈でしっかりしている彼女は、こんな弱い部分もあったのだ。

渉はそっとハンカチで涙を拭いてやる。ちょっと、渡すんじゃなくて、拭いてやるって。弟のそんなところは恥ずかしくて見ていられない。

グラスに注いであったワインを一気飲みしてしまった。

「美緒は、一ノ瀬さんのことをどう思ってる?」

「瑞穂」

哲也のことを分かっている渉は、瑞穂を止めようとした。

でも、気を使ってもらっても仕方がない。私は、私がどうしたいのか、私の心が決めるしかないからだ。

「どうしたのよ、急に。一ノ瀬さんは上司じゃない」

「そうだけど、美緒と一ノ瀬さんを見ていると、とてもいい雰囲気だから」

「それは、一ノ瀬さんと仕事をする機会が多いからよ、瑞穂が断ってばかりいるから」

じろりと原因である渉を見る。

「それだけじゃないと思うけど?」

「それだけよ」

私はこれからも縁がないかもしれないし、縁があるかもしれない。

縁があればと人は言うけれど、それは自分が引き寄せ願うから、縁が付いてくるのだ。

でも、私の心は今でも哲也を想っている。

それは誰が何を言っても動かない。両親には悪いけど、孫はこの二人に期待して欲しい。

「そう? そうかもね」

「そうよ」

瑞穂と渉は夢一杯、幸せ一杯だ。

哲也の話題を出して、場を暗くしたくない。

和やかに食事は進んで、式の話やハネムーン、新居などの話に花が咲いた。

瑞穂の可愛らしい面を見ると、やっぱり渉は瑞穂を支える男なのだと思える。

結婚する人に巡り合える確率は何パーセントなんだろう。

わずかな確率なら、本当に運命だと思う。哲也が生きていたら、この数パーセントの二人になれたのだろうか。

私は、そんなことを考えながら、二人を見送って帰った。

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