眠れない夜をかぞえて
「哲也? なんでそんな悲しい顔をするの? 最近は笑ってくれていたじゃない。どこか具合でも悪いの? 何か言って? ちょっと、行かないで! 哲也!」

哲也と叫んで私は飛び起きた。

「夢……」

エアコンをつけて眠っていたのに、じっとりと汗をかいている。

「まだ4時……」

随分と早く哲也は起こしてくれたものだ。もう一度寝ることは出来ず、水を一杯飲んでテレビを点ける。

「シャワーでも浴びよう」

目は覚めているけれど、頭をすっきりとさせたい。

「もう、哲也のばか」

今日は眠くなるコンプライアンス講習があると言うのに、この時間に起きてしまっては、眠ってしまうこと必須だ。

居眠りしないようにドリンク剤と飴を買っていかなくては。

初めて見る夢だった。

私に背を向けるなんて、あれだけ叫んで哲也の名前を呼んでも、立ち止まっても振り向いてもくれなかった。いつも守ってくれていたはずなのに、なんで背を向けてしまったのだろう。

向こうの哲也に何かあったのだろうか、不安がよぎる。

月命日にお墓参りを欠かさなかったけど、今月はあまりに忙しく、アクシデント続きで行けていない。そのことが原因なのか。

舞台のポスター撮りが終わったら、お墓参りで休みをもらう予定だ。それまで待っていて。

事務所近くのカフェで、モーニングセットを食べる。

ゆっくりと本を読み、コーヒーを飲む。目覚めが悪かった今日は、こうしてゆっくりと時間を過ごしたい。

暫くすると、もしかして一ノ瀬さんは既に出勤しているかもと頭をよぎる。

朝食も食べていないかもしれない。そう思って、テイクアウトでモーニングセットを追加注文して店を出た。

事務所につくと、総務に電気が点いていた。

「おはようございます」

「桜庭? どうした? いやに早いじゃないか」

「目が覚めちゃって、モーニングを食べて出勤しようと思って」

「ゆっくりしていればよかっただろう?」

「一ノ瀬さん、朝食は食べました?」

「いや、牛乳を飲んだけどな」

「やっぱり。御馳走します。いつもお世話になっているので」

カフェでテイクアウトをしたモーニングセットをデスクに置いた。
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