眠れない夜をかぞえて
「大変だあ」

「呑気なことを言ってないで。呼んでるわよ、一ノ瀬さん」

「え?」

呼ばれているのも気が付かなかった。いそいでデスクの前に行くと、

「桜庭、チェックリスト」

「あ! すみません! 今すぐ」

もう、今日はダメだ。何をしても失敗してしまいそう。全部一ノ瀬さんのせいだ。

リストは既に作ってある。それをプリントアウトして一ノ瀬さんに持って行けばいい。プリントアウトしたら、講習が行われる会議室の準備だ。

「お待たせしました。訂正などありましたら、言ってください」

「わかった」

チェックリストを渡すと、すぐに会議室の準備に取り掛かる。

「しーちゃん!」

私とは端と端にいるくらい離れていたバイトのしーちゃんを呼ぶ。彼女がいれば百人力。

「はーい!」

「ちょっとヘルプして!」

「わかりました!」

軽快に走って私のところに来たしーちゃんと会議室に行き、準備を始めた。

机を拭き、資料を人数分机の上に置く。筆記用具とペットボトルのお茶も置く。

「後は、プロジェクターか」

スクリーンを降ろして、パソコンをセッティング。

全てを終えて会議室を出る頃には、しーちゃんに手伝ってもらったのにも関わらず、ぐったりとしてしまった。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃない」

「最近いそがしいですもんね、毎日残業だし。食べてます?」

「一応ね」

「あとでアイスを買ってきますよ」

「うれし~」

会議室の準備が終わったら、今度はポスター撮りの準備。しーちゃんに頼んでしまおう。

「しーちゃん、今度はポスター撮りに持って行くものをチェックするの、手伝って」

「分かりました」

しーちゃんの手を借りれば、あっという間に終わるに違いない。

確認が終わったか、一ノ瀬さんに聞きに行かなくては。本当に行きづらい。

「あの、一ノ瀬さん、さっきのチェックリストですが、問題はありませんでしたか?」

「ああ、あれでいい。それと、唐沢さん用にここのコーヒーを用意して欲しい。お気に入りのコーヒーなんだ、悪いな」

一枚のメモを渡された。そこに店の名前と場所が書いてあった。

「わかりました」

メモを見ると、チェーン店のコーヒーではなさそうで、聞いたことのない店名だった。

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