眠れない夜をかぞえて
彫が深すぎず、浅すぎない顔。鼻筋が通っていて、アーモンド型の目。二重だけど、その幅も薄め。派手過ぎない顔だけど、地味でもない。整っている顔ってこういう顔をいうのだろうか。

一ノ瀬さんの声がいいのか、それともつまらない講義に緊張感もなく座っているせいなのか、私は意識を飛ばした感覚はなかったのだが、どうやら居眠りをしてしまったらしい。

コツンと頭に何か当たった感覚がして目を開けると、座っている私の隣に一ノ瀬さんが座っていた。

やってしまった。

上司が一生懸命に説明をしている時に、居眠りなんて。

講義は啓発のための映像がスクリーンに流れていた。しまった、これは私の役目だった。

本当にバツが悪くて、顔向けが出来ない。

一ノ瀬さんは隣で脚と腕を組んで座り、私に向かって声を出さずに「コラ」と言った。でもその顔は、笑っていた。

恥ずかしくて、フェードアウトするように資料を顔の下から隠していった。なのに、そんな私の頭をくしゃりと撫でた。

「では以上です。いろいろと言ったが、芸能人は公人と一緒だ。どこにでも一般人の目が光っている、監視カメラに監視されていると思うことだ。芸能人でもプライベートは隠したいと思っているかもしれないが、今の時代は、難しい。断りなくカメラを向けられ、SNSを投稿すれば、言葉尻を拾って攻撃してくる。ただ芸能人になりたい、モテたい、金を稼ぎたいといろいろな考えでこの業界に入って来たかもしれないが、浮かれた考えでは生き残れないぞ。覚悟を持って仕事をして欲しい。では、以上です。お疲れ様でした」

お疲れさまでしたと一斉に声があり、席を立つ。

あくびをするもの、背伸びをするものと色々だ。

居眠りをしてしまい、顔を合わせたくないけど、労をねぎらわないとまずい。

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