眠れない夜をかぞえて
「そうだ、なんで連絡してくれなかったんですか?」
私は、少し恨み節で一ノ瀬さんに言った。
「休みの時まで仕事をすることないだろう? 休む時は休む。それが一番だ。それに今回のことは、慌てたってなにも変わらない。夜中だったし、マスコミ対応は朝で良かったからな」
「そうよ、休みは休み。私だって休みの日に連絡が来たら嫌だもん」
瑞穂も同じことを言う。なんだか仲間外れにされたようで、嫌だった。
「でも、何歳差?」
「例のね」
周囲の目を気にしながら、話題の二人の話をする。
「えっと、23と確か31……8歳……8歳も年上って、人の趣向っていろいろね」
瑞穂は指を折って数えた。私は年下の趣味はないけど、好きになってしまったら年なんて関係なくなるのだろうか。
「でも、魔性の女ね。あの色香にまだ青二才はころっと騙されちゃったのね。遊びだと思うけど」
「う~ん、そうだと思いたくないけど、つまみ食いの感じがするわね」
「なんだ、二人とも。凄い分析力だな」
一ノ瀬さんは、女二人の会話に、少し引いてしまったようだ。女は現実的でシビアなのだ。
「女ですから。現実的なんですよ」
「瑞穂は違うでしょうね」
「一緒にしないで」
「なんだ? 川奈の彼氏を知っているのか?」
「瑞穂の彼氏は、私の弟なんですよ」
「弟!?」
さすがに一ノ瀬さんも驚いたのだろう、飲んでいた水で少しむせた。
「一度、TDLに一緒に行ったことがあるんです。そこで意気投合したのか、一目惚れなのか分からないけど、いつの間にか付き合ってて」
「かれこれ、3年になりますかね?」
私と弟は3つ違いだ。まだまだ新入社員の気分が抜けない社会人だ。
瑞穂は面倒見がいいらしく、就職に関しても、母親の様に一生懸命に相談に乗ってくれたらしい。これは弟から聞いた話だ。
「なんだか、複雑な感じがするな」
「なんでです? すごくいいじゃないですか」
瑞穂は一ノ瀬さんに少し怒ったように言う。
「もしも、もしもの話だ。別れでもしたら、桜庭との関係がぎこちなくなるんじゃないか?」
「それは、社内恋愛と一緒ですよ。別れたって、仕事は仕事で割り切って出来るじゃないですか。それと一緒。ね?」
「まあね」
確かに、そのことを考えもしないでもなかった。でも、恋愛は二人の問題で、私と瑞穂の関係がぎくしゃくなる訳じゃない。
「ま、あ、そうか、それもそうだな」
「経験あり……とか?」
瑞穂は意地悪く言った。
「……ない」
「そのためが何だか怪しいですね。過去はなくても、これからあるとか……?」
「え? なに? なに?」
意味深長に言う瑞穂に、私は何か知っているのかと、興味津々だ。一ノ瀬さんは、なんだか含みのある顔で瑞穂を見た。
「ちょっとカマかけて見ただけよ。これだけのいい男なのに、女の影がないから。聞きたいじゃない? 興味あるでしょう? 美緒も」
「たしかに」
これだけいい男で、彼女の影がない、もしかしたらそこを上手に隠していて、彼女はいるのかもしれない。
上司だけど、一ノ瀬さんが好きになる女性はどういう人なのか、とても気になるのは下世話と言うものかも。
「あったとしても、これからあるとしてもお前らには言わない」
「すぐにバレますよ。男なんて単純なんですから」
瑞穂に揶揄われ、スキャンダル話からジャンプして、一ノ瀬さんを揶揄ってランチは終了した。